三話

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三話

孝介は寮での生活は快適といえるものではなかった。 アパートと聞いていたのに長屋だし、玄関も敷居が高いし、トイレも汲み取りだった。しかもご丁寧に蓋まで付いている…けどトイレットペーパーをかけるところがなく、チリ紙が置いてある。孝介は東京郊外の団地で育ったが水洗トイレだったし、たまに両親の田舎に行った時、汲み取りトイレにビックリした経験がある。その汲み取りトイレがある長屋がこれからの住まいになるのだ。部屋もフスマ、押し入れ、窓に囲まれており壁というものがない。風呂に行くのも先輩の部屋を通らなければならない。先行きが思いやられた。 その寮で一緒に暮らすことになったワタナベさんだが、来年結婚するらしい。見た目は背も低くで短足で、頭も薄い。顔もイケメンとは言えない。歳は孝介の2歳上らしい。そんなワタナベさんはとても健康優良児だ。ある夜、トイレ入った孝介だが、汲み取りトイレの換気扇が壊れているから強烈に臭い。トイレの蓋を開けると電気に照らされてワタナベさんの一本グソがハッキリと分かる。およそ幅3センチ、長さは20センチくらいだろうか。その一本グソにの周りに灯りに反応したウジムシが動いている。「すげ〜こんなクソしたことねえよ、いったいどんな食事したらあんなクソ出るんだ」と思いながら臭いトイレで我慢しながらオシッコをするのであった。 ワタナベさんには朝8時に必ず福岡に住んでいる彼女から電話がある。遠距離恋愛だ。 「おーさっちゃんか〜、元気しよるか?」 こんな会話が毎朝あるのだ。長屋の2DKだからワタナベさんの部屋とはフスマ一枚だけの仕切り、先輩の声が筒抜けに聞こえる。ラブラブなんだなぁと孝介は思いながら一応付き合っている彼女を思い出していた。彼女とは大学のサークルで知り合った。特別に可愛いわけでもなく、好きになった訳でもないが、高校時代野球に明け暮れていて彼女とかいなかったから、とにかく「彼女が欲しい」気持ちだけで、とにかく押しまくって彼女にしたのだ。一度別れて前の年にヨリを戻していた。先輩の彼女ってどんな感じなんだろう、毎朝決まった時間に電話してくるくらいだから、お互い相思相愛なんだろうな。ワタナベさんには興味はなかったが、ワタナベさんの彼女には少しだけ興味が湧いた。
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