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五話
孝介と先輩のワタナベさんが一緒に住む新しい寮、新築アパートは快適だった。長屋での孝介の部屋は四方が窓かフスマで壁というものがなかったけど、今度はちゃんと壁もある。それだけでも嬉しい。2LDKの間取りで孝介は南側の部屋になった。
もちろんトイレも洋式の水栓だ。
この間の夜、支店長にしこたま怒られたワタナベさんは無言で寮に帰宅した夜、まっすぐ部屋に入ったきり出てこなかった。孝介は冷蔵庫の中からビールと冷蔵庫の上にある買い置きのカップラーメンで夕食を済ませた。この頃から食事にビールを飲むことが定番になった。少しテレビを見た後シャワーを浴びようと部屋を出て風呂場に向かう時、ワタナベさんの部屋の扉が15センチほど空いているのに気づいた。暗かったので寝てるのかと思ったら一筋の光が扉の空いた隙間からチラッと見えた。そ〜っと近づき覗いてみると、ワタナベさんは小さいテーブルの上にローソクを一本立てて、正座して恨めしい顔をしながら白い紙に何か筆ペンで書いていた。孝介は心の中で「おおっ」と驚いたが気付かれないように風呂に向かった。風呂から上がり部屋でテレビを見ながらのんびりしていると、ワタナベさんが風呂に入るのが分かった。孝介は先ほどの光景を思い出していた。ワタナベさんいったい何を書いていたんだろう。そんな気持ちになったらどうしても気になって、ワタナベさんの部屋に入って確かめてみたいと思った。ワタナベさんの部屋に入ると、散らかっている部屋のほぼ真ん中に小さいテーブルがあった。その上には火を消したローソクが立ててあり、白い紙にはこう書かれていた。
支店長のバカヤロー
支店長のバカヤロー
お前無能のくせに怒鳴りやがって
何も分からんくせにバカヤロー
支店長のバカヤロー
お世辞にも上手とは言えない文字で書かれていたが、恨みだけは十分こもっているのは分かった。孝介はプッと吹き出して慌ててワタナベさんの部屋を出た。
ワタナベさんは日々支店長からのイジメにも近い説教のストレスを紙に書き留めることで発散してたんだ!孝介はこれはおもしろいネタになるなぁと思い、明日一つ上の先輩イトウさんに話さないと…なんて思いながらワタナベさんが風呂からあがる気配を感じていた。
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