2人が本棚に入れています
本棚に追加
七話
初めてのお盆商戦が終わると、会社は4日程度の休みがあった。当時は九州出身の人が多かったので、帰省できるようにとの配慮だった。そのお盆休みを過ごした孝介は何となく冴えない表情でいた。彼女の美穂と盆休みに1日だけ会ったのだが、会ったその日はケンカになったのだ。美穂は短大を卒業して大手の証券会社に就職していたから、金融機関は土日休み、孝介はサービス業だから平日休み。
当然休みが合わない。会ったのも平日の夜、どちらかと言えば孝介が都合を合わせているけどお互いときめきもない、美穂も仕事が忙しくてイライラしているし、食事もそこそこにケンカになった。
せっかく会ったけどこんなことになるのなら面白くないし、俺たちは合わないから終わりも近いな…なんて思いで休み明けの仕事に出ていた。
数日後の夕方、本部の営業課長が突然来た。この営業課長は会社内でも怖い人で知られているから少し緊張した。売り場で仕事をしていたら支店長から呼ばれて事務所に入ると営業課長から
「そこに座れ」
と言われ座った。孝介は何か怒られるのかなと色々と振り返っていた。そしたら
「滝田!お前9月から赤羽支店で営業だからな、頼むぞ!」
孝介は
「はぁ…」
「はぁじゃないよ!お前転勤なんだからな!新しく開店する店だからしっかりやれよ!」
というわけで突然転勤になった。
先輩のイトウさんに話したら
「ウチの会社の転勤はいつも突然だから、そんなに驚くことじゃないよ。今回は新店舗だから早いくらいだよ。オレなんか今の支店の内示は赴任日の前日に言われたよ(笑)」
と教えてくれた。そんなものかと思いながらも孝介は次の寮はどうなんだろう?それが一番心配だった。せっかく長屋から新築アパートになったのに…まさかまた汲み取りトイレじゃないよな…などと仕事以外のことを心配していた。
そういえば、これでワタナベさんともお別れだ。支店長の恨みつらみを紙にしたためるような人なので、変わった人だったけど、悪い人ではなかったなと孝介は改めて思っていた。
最初のコメントを投稿しよう!