八話

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八話

転勤の内示を受けてから数日後、東京は有楽町の本部の一室。お偉いさん方に囲まれる形で新店舗メンバーが緊張した面持ちで座っていた。新メンバーとは今日が初めての顔合わせだ。その中で一番若い孝介はさらに緊張していた。 この日は新店舗のSP会議、セールスプロモーション会議だ。新店舗の所在地とか市場規模とか今後の計画や開店までのスケジュールなどを聞かされた。孝介は初めてのことで緊張してとても疲れて、出前の中華丼を少し残してしまい、営業課長から怒られた。いちいちそんなことまで怒られた時代だった。 そんな中、一つだけ嬉しいことがあった。それは寮が新築アパートであることだ。これで汲み取りトイレの心配はしなくていい。支店長のクラタさんは独身なので同じアパートに独り住まい、孝介はサコタさんという4年目の先輩と一緒に住むことになった。部屋はクラタさんが101号室、孝介達は103号室に決まった。 3年目のウチダさんは結婚しており、奥さんと2人暮らしだった。 引越しは簡単だった。仏壇配達用のワゴンに荷物が全部収まった。自分で運転して新しい寮に移った。 新築のアパートの部屋に荷物を置いて、ワゴンを返しに行った。引越しの行き帰り、運転席のラジオから中島みゆきの「そんな 時代も あったとのと♪」時代が流れていたのがすごく印象に残っていた。彼女の美穂ともうまくいってなかったからかもしれない。夜は加須支店のみんなが送別会を開いてくれた。何故か支店長の奥さんも来ていた。この奥さんは孝介が昼間カップ麺ばかり食べていると支店長から聞いて、オレの分までお弁当を作ってくれるような優しい女性だ。支店長がヤキモチを妬くのが面倒だったけど。 開店は9月15日、敬老の日と聞いていたが、急に前の週の土曜日、11日に開店が決まった(この当時は毎年9月15日が敬老の日だった)。支店の内装工事が終わるまで、近くの戸田支店に間借りをして準備を進めた。毎日遅くまで準備をしたが、支店長のクラタさんが前の支店長とは真逆の人で、とにかく仕事が遅い。先輩のサコタさんはマイペースな人だし、ウチダさんもそれに合わせる人だったから、ちっとも準備が進まなくて、孝介は若造ながらもカリカリしていた。 日々何とか準備を進め、商品の搬入、開店セールのチラシポスティングなどヘトヘトになりながらも、ようやく明日、開店の日を迎えるのだった。 チラシのポスティングはグループに分かれて実施することになった。孝介のグループは営業課長と本部の人がメンバーだった。 営業課長が 「作戦会議するぞ。いいか、効率を上げるためにオレはやらん!」 と、訳の分からないこと言って、早々にゴルフの打ちっぱなしに行ってしまった。残された孝介と本部の人と2人て、課長が配る分を半分に分けてポスティングを始めた。アパートやマンションは投函してはいけないと言われていたので、時間がかかった。朝9時から始めて終わったのは夜7時を過ぎていた。最後の方はアパートにも投函をして終わらせた。合計で1500枚くらいはやったかも… 当時、面倒な仕事を下のものにやらせるという理不尽極まりないことが当たり前のようにある会社だった。
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