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鸚石が落ちてきた!
よくもまあ、この二十二年間、つまらない自信ばっかり積み上げてきたものだと思う。
『この度は、弊社の新卒採用選考にご応募いただき、誠にありがとうございました。
今回はご希望に添えない結果となりました。
メールにて恐縮ではございますが、ご了承のほど、よろしくお願い申し上げます。
大道俊樹様の、これからの就職活動の成功を祈念いたします。
○○株式会社 人事部 新卒採用担当』
企業からお祈りメールが来るたび、だるま落としみたいに、カン、カンと叩かれて、自分がひどく矮小なものになってしまったように感じる。
これで十社目、たかが十社、されど十社だ。
いったい、何がいけなかったのか。
面接で自分の短所を訊かれ、「人に流されやすいところです」と答えたせいか。しかしそのあとすぐに、失敗から学んだエピソードでフォローした。
ならば、最近読んだ本を尋ねられ、口ごもったのがいけなかったか。勉強以外で普段、本なんて読まないから仕方ない。
俊樹は公園のベンチに座り込み、頭をかきむしった。
ダイドウトシキという人間が築き上げた歴史に、ひびが入るのを感じていた。
散々やった自己分析。
もう嫌というほど自分を見つめ直した。
これ以上、どこを深掘りすればいいのか分からない。
企業研究だってそれなりに頑張った。
OB訪問したり、ネットや新聞で集めた情報をファイリングして、考えをまとめたりした。
己の世界は未だ箱庭と知りながら、精一杯視野を広げたつもりだ。
「あぁあぁああ……」
ため息のつもりが、うめき声がもれた。
家に帰る気も起きない。
夕暮れの空を仰ぎ見る。
瞼を閉じようとしたその瞬間。
ひゅるんーーそんな音が聞こえたろうか。
日が沈んだばかりの薄闇が、一瞬だけ、きらりと光った。
瞬きをしたら、ぜったいに気付けなかった。
流れ星か。いや、そんなものじゃない。
光は、公園のトイレ裏の草むらに消えた。
「今のは……なんだ?」
空から落ちてきた、黄緑色の光の線。
俊樹は、荷物をベンチに放ったまま、思わず駆け出していた。
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