鸚石が落ちてきた!

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 トイレ裏、キノコが生えそうな湿った地面を、くまなく探しながら歩く。  ぜったいに、ここに何か落ちたはずだ。    まるで、見つけてくれと言わんばかりの(きら)めきーー。 「あ、これか……?」  トイレの壁をわずかに破壊したそれは、鮮やかな黄緑色の石だった。  五百円玉くらいの直径で、ゴツゴツと歪な形をしている。眺める角度によって、鮮やかなライム色にも、黒色にも見えた。  恐る恐る、爪の先で叩いてみる。  熱くはないし、動きもしない。  思い切って掴み上げてみる。  そのとたん、俊樹の頭の中で、金属を引っかいたような、それでいて鳥のさえずりに似た声が響き渡った。  脳内に鳥が出現する。  全身鮮やかな黄緑色をしている。  クチバシだけが朱色で、カタカタと動く。  これは鸚鵡(オウム)……いや鸚哥(インコ)? 『キッ、キキキキキュイィイィ!  オメデトございマース!  アナタは、天地明色(てんちめいしょく)☆宝くじに、みごと当選されましタ。  幸運なアナタには、この鸚石(いんせき)を差し上げマーース』 「はっ? インセキって、あの隕石(いんせき)?」  思わず合いの手を入れてしまう。 『貝貝女鳥と書いてイン。セキは石でーす』  パッと漢字が思い浮かばなくて、地面に書いてみる。  難しいけど、なんか見たことある字だ。  鸚哥(インコ)のインだな。   「ていうか、頭ン中、ザワザワして気持ち悪ぃから出てってくんね」 『効力は使ってからのオタノシミ。頑張ってるアナタへ宇宙からのプレゼント! パチパチ。では、健闘をイノル』  鸚哥(インコ)らしき鳥は、言いたいことだけ言って消えた。 「え。マジ何だった。ドッキリ? タチの悪い悪戯(いたずら)か」    俊樹の問いに答えてくれる者はいない。  手のひらの石を見つめる。  宝くじとか、幸運とか言っていたが、言葉どおり受け取って良いものか。  俊樹は、薄気味悪い石を捨てて帰ろうとして、気付く。これを手放せば、就活という現実に、ひとりで立ち向かわなければならない。  今はワラにもすがりたい気分だった。  良いものか悪いものか分からないが、不思議な力はありそうだ。  悩んだ末に、俊樹は鸚石(いんせき)とやらをポケットに押し込んだ。
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