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部屋の扉を閉めると同時に、心臓が大きく鳴った。
ポケットから鸚石を取り出す。
母とのあの短いやりとりで、石の効力を把握した自分は、天才じゃなかろうか。
きっとこの石は、相手の意思を読み取り、鸚哥のように、持ち主の声を真似て言葉を発するのだ。
つまり、石が発する言葉は、相手が望む言葉ということだ。
「いやいやいや、そんな都合のいいものがこの世に存在するはずが……」
でもこれは、地球の外から来た石だ。
そんな都合のいいこともあるのかもしれない。
ぞわ、と鳥肌がたった。
「就活に……使ったら」
机の上に、石を置く。
夜を映す窓に、黄緑色の光が灯る。
俊樹は、シュミレーションしてみる。
石と共に、面接官の前に立つ自分の姿ーー。
このとき、心の奥深くで、これに頼ってはいけないという気持ちと、一生を決める大事な時期だから仕方ない、という気持ちがせめぎ合っていた。
結果、ちょっとくらいなら試してみてもいいか、という半ば好奇心が勝ってしまった。
大学新卒という肩書きで挑むチャンスは、人生で一度きりしかない。
「そうだよ、どっちみち、このままじゃダメなんだ。だったら」
ひとまず、面接で使えるかどうか検証しよう。
大学の友人とか、教授とかに試してみて、面接にも役立つかどうか確かめないといけない。
俊樹は机の上の光を眺めた。
決意を固め、部屋を出る。
『……マエは、ダメじゃねーヨ』
扉が閉まる一瞬の、小さな呟きに気づかないまま。
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