集団面接

1/1
前へ
/10ページ
次へ

集団面接

 石の力を友人たちで試してみて、分かったことがある。  俊樹の周囲に複数人いるときは、自分の意識が最も集中している人物の意思を、()み取るらしい。    まだ推測の域を出ないが、俊樹は自分の集中力をコントロールするよう努めた。  練習は失敗も多かったが、学業と就活の合間のいい気晴らしになった。  鸚石(いんせき)をだいぶ使いこなせるようになった頃、俊樹は意を決して一次面接に臨んだ。  石は、なるべく口元の近くになるよう、胸のポケットに入れた。  それから、声と口の動きが合わないのはおかしいから、マスクを着用することにした。  ここまで来ると、受かるか受からないかより、鸚石(いんせき)の力を試してみたいという気持ちが強くなっていた。  人生における大事な分岐点、よく、賭けに出るような真似ができたものだ。  一次面接は、集団面接。  面接官二人に対し、学生は五人。  面接官のうち、ひとりは学生の発言を書き留める役、もうひとりは質問する役割らしい。  俊樹は、質問する役割の面接官に、意識を集中させることにした。 「当社を志望した理由は何ですか」  想定内の質問、これは石を使うまでもない。 「学生時代に一番頑張ったことを教えてください」  つまらない。  これも他社の面接でさんざん、答えた。  まだ石の出番じゃない。 「自分自身を童話の登場人物に例えてください。その理由も添えて」    えっ?  学生たちの五人が五人とも、虚をつかれた顔をした。逆に、質問を繰り出した面接官は、してやったりな顔をする。  何をどう答えれば、面接官の琴線に触れるのか。想像もつかない。  運の悪いことに、この質問に一番に答えなければならないのは、俊樹だった。  俊樹は、面接官の目をじっと見つめた。  ポケットから、〝俊樹〟の声が飛び出した。 『私を童話の登場人物に例えるとしたら、「長靴をはいた猫」の、です。  理由は、人の長所・短所を見極め、サポートする力に長けているからです。  バレー部では、副部長として、後輩たちの相談に乗っていました。  ある後輩が、足首の捻挫により、一時部活を休まなければならなくなりました。私は、後輩の苦しい気持ちに耳を傾けました。  怪我をしていてもできるトレーニングを考え、他校との練習試合を動画に撮って、後輩と一緒に研究しました。  今、その後輩はエースとして活躍しています。私にとって、誰かの助けになることが喜びなのです』 「なるほど、上手い例えだ。しかし、君自身はリーダーとして引っ張っていくタイプではないと?」 『おっしゃるとおりです。私には今までリーダー経験がありません。ですが、副部長を経験したことで、物事を実行し、分析、改善していく能力は身についたと思っています』 「リーダーというのは、必ずしも組織の頂点に立っているわけではない。人の特性を見極め、成長を促すことも、上に立つ者の責務だからね」  面接官が頷いたのを見て、俊樹は小さく拳を握った。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加