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集団面接
石の力を友人たちで試してみて、分かったことがある。
俊樹の周囲に複数人いるときは、自分の意識が最も集中している人物の意思を、汲み取るらしい。
まだ推測の域を出ないが、俊樹は自分の集中力をコントロールするよう努めた。
練習は失敗も多かったが、学業と就活の合間のいい気晴らしになった。
鸚石をだいぶ使いこなせるようになった頃、俊樹は意を決して一次面接に臨んだ。
石は、なるべく口元の近くになるよう、胸のポケットに入れた。
それから、声と口の動きが合わないのはおかしいから、マスクを着用することにした。
ここまで来ると、受かるか受からないかより、鸚石の力を試してみたいという気持ちが強くなっていた。
人生における大事な分岐点、よく、賭けに出るような真似ができたものだ。
一次面接は、集団面接。
面接官二人に対し、学生は五人。
面接官のうち、ひとりは学生の発言を書き留める役、もうひとりは質問する役割らしい。
俊樹は、質問する役割の面接官に、意識を集中させることにした。
「当社を志望した理由は何ですか」
想定内の質問、これは石を使うまでもない。
「学生時代に一番頑張ったことを教えてください」
つまらない。
これも他社の面接でさんざん、答えた。
まだ石の出番じゃない。
「自分自身を童話の登場人物に例えてください。その理由も添えて」
えっ?
学生たちの五人が五人とも、虚をつかれた顔をした。逆に、質問を繰り出した面接官は、してやったりな顔をする。
何をどう答えれば、面接官の琴線に触れるのか。想像もつかない。
運の悪いことに、この質問に一番に答えなければならないのは、俊樹だった。
俊樹は、面接官の目をじっと見つめた。
ポケットから、〝俊樹〟の声が飛び出した。
『私を童話の登場人物に例えるとしたら、「長靴をはいた猫」の、猫です。
理由は、人の長所・短所を見極め、サポートする力に長けているからです。
バレー部では、副部長として、後輩たちの相談に乗っていました。
ある後輩が、足首の捻挫により、一時部活を休まなければならなくなりました。私は、後輩の苦しい気持ちに耳を傾けました。
怪我をしていてもできるトレーニングを考え、他校との練習試合を動画に撮って、後輩と一緒に研究しました。
今、その後輩はエースとして活躍しています。私にとって、誰かの助けになることが喜びなのです』
「なるほど、上手い例えだ。しかし、君自身はリーダーとして引っ張っていくタイプではないと?」
『おっしゃるとおりです。私には今までリーダー経験がありません。ですが、副部長を経験したことで、物事を実行し、分析、改善していく能力は身についたと思っています』
「リーダーというのは、必ずしも組織の頂点に立っているわけではない。人の特性を見極め、成長を促すことも、上に立つ者の責務だからね」
面接官が頷いたのを見て、俊樹は小さく拳を握った。
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