自分の意思

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自分の意思

   あのあと、田尻面接官と何を話したのか、よく覚えていない。  合否は数日後に通知されるらしいが、不正を働いた上に、記憶がないほどの(てい)たらくでは、結果は絶望的だろう。  きっと、あの面接官が鸚石(いんせき)のことを知らなければ、すり抜けることができた。  田尻に会うまで、俊樹のことを誰も疑わなかったのだ。それほど、自然に会話できていた。  でも、もう使う気力がない。  田尻の静かで鋭い眼差しを思い出すと今でも冷や汗が出るし、何より、自分の愚かさを突きつけられて恥ずかしかった。  自室のベッドに大の字になりながら、俊樹はすぐ横に置いた鸚石(いんせき)に目を向ける。  相変わらず、きらきらと不思議な色をたたえている。  こんなもの、捨ててしまおうかーー。 「お前、宇宙へ帰ったらどうだ。もう、ここにいたって仕方ないと思うぞ」  鸚石(いんせき)に話しかける。  返答はない。  そりゃあ、そうか。  石自体には意思がないのだろう。  だからきっと、石が何を思っているか、その言葉を聞きたいと思っても無駄に違いない。 「机の引き出しにでもにしまっとくか」  反動をつけて起き上がり、石をつまみ上げたときーー。 『オレ、暗いトコ、キライ。風通しのイイ場所にオケ』  機械的な、それでいて子供らしい声が聞こえた。 「なんだよ……思いっきりわがまま言うじゃねーか」  俊樹はなんだか、笑ってしまった。  この日以来、俊樹が鸚石(いんせき)を持ち歩くことはなくなった。  代わりに、小言を言う珍しい置物として、部屋の片隅に居場所を設けてやった。  たまに『ゲンキダセヨ』とか、『アマッタレンジャネーヨ』とか言って、笑かしてくれる。  あるとき、石が言った。 『俊樹ヨ、オレはお前の中にまるっきり存在しない言葉は言わねーゾ。田尻の面接は残念だっタナ。お前の中には、答えがナカッタ』  石の効力について、自分は思い違いをしていたようだ。  鸚石(いんせき)は、相手の意思を読み取る代物ではなかった。  持ち主の内側に眠る、宝石のような、きらきらと輝くを引き出してくれるものだったのだ。  俊樹は誓いをたてた。  もっと、自身を磨いていこう。  今まで積み上げてきたものは、けっしてつまらないものばかりじゃなかったと、そう言えるように。
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