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③
ーーーーー以下グループチャットーーーーー
元木:園田が来なくなってもう半年くらい?
マジ平和だな もう一生来なくていいよ
あの人自分が自分がっていつも出しゃばってさ 迷惑してたんだよ
坂田:まぁな 俺らもいるんだっての
俺らの仕事片っ端から奪っといて俺がいなきゃお前らはなんにもできねぇってオーラ マジ勘弁して欲しい
なにもさせないで経験なんか積めるわけねーよ
他の部署の同期なんて もうあの頃にはひとりだちしてたからな
元木:そうそう 俺たちもだけど 高瀬さんなんて園田より先輩だから余計に頭にきてたんだろうな
園田がいない隙にシステム全部変えちゃってさw
園田が戻ってきた時なんて言うか 今から楽しみだって言ってたぜw
坂田:まぁお陰で忙しすぎだけども
あの人相当怒ってたもんな
新システム導入を言い出した時のあの熱はすごかったw
高瀬さんがちょっと抜けたとこがあるのは本当だけど 園田が――
元木:――あ、駒田さんじゃないですか お久しぶりです
坂田:駒田さん! お久しぶりです!!
元木:今 園田さんのこと話してたんですけど
駒田さんが一番園田に迷惑かけられてたんじゃないですか?
めちゃくちゃ仕事押し付けられてた時あったじゃないですか
それが原因で辞めたのかなって……
新しいとこではどうですか?
俺ら 駒田さんには大分助けてもらったし あのでっかいミスも自分で綺麗に解決して ホント尊敬してたんですよ
もっともっと色んなこと教えて欲しかったです
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流れる文字を見ながら俺は頭が真っ白になりひゅっと喉が鳴った。
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駒田: 元気だ今日はじかnがないまt
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と、たったこれだけの文章なのにショックからか冷たく、思うように動かない指でなんとか打ち込み返事も待たずに退出した。
パタンとノートPCを閉じて、はっはっと短く息をする。
呼吸の仕方を忘れたかのようにうまく息ができなくて苦しい。苦しくてたまらない。
いったいなんなんだ。あいつらはなにを言っている? 同姓同名の別人のことか?
あのグループチャットは同じ部署のヤツなら誰でも参加できるものではあるが、うちの部署に『園田』は俺しかいない。俺が入院中に誰か新しいヤツが入ってそいつの名前が園田だったとしても、駒田は俺が入院する前に会社を辞めているから駒田の話が出ている時点で別人説は消えた。
ということは、あの『園田』とは俺以外あり得ないのだ。
だが、やり取りされていたメッセージの内容が信じられず、他人のことを言っているのだと思いたかった。
毎日まいにち人の分も頑張って仕事をしていたつもりだ。このメッセージのやりとりをしていたヤツらも何度も助けたことがある。感謝して欲しいとは思ってはいなかったが、頼りにはされていたと思っていた。
駒田だって例のこともあったからか必要以上にお礼を言っていたし、自分が嫌われているなんて思ってもみなかった。
突然辞めると知った時にはなんで相談してくれなかったんだ。俺だったら力になれたのに――と思っていた。あのミスを解決した際の連日の徹夜での奔走も実は口で言うほど辛くはなかったのだ。駒田との作業は、――どちらかと言えば楽しかった……。
普段相談する相手もおらずひとりだけで解決してきたから、ちょっとしたことでも誰かと相談したり意見を出し合うことが新鮮で、楽しかったのだ。
だが、なんだこれは。俺は身を削ってみんなに嫌われていたということなのか。
よかれと思ってしてきたことはなんの意味もなく、独りよがりだったということか。嫌われて陰口を叩かれ……。
入院して以来誰ひとり見舞いに来るヤツがいなかったのは俺の抜けた穴を埋めるのに忙しいのだと思っていたが、なるほどそういうことだったのか――。
もう笑うしかなかった。
「ハハ……」
俺はその日のうちに体調不良を理由に会社に退職願いをメールで送り、すぐに受理された。退職届もメールで大丈夫だということだったので、それもすぐに送った。
あっけない。なんてあっけない幕引きだ。
少しだけ引き留められることを期待したが――――、同僚だけではなく会社にとっても俺はいらない人間だったようだ。
悲しいというより俺の心は空洞で、涙のひと粒も出やしなかった。
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