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2 夢の中から来た男
凍った大気に光が射して、朝が始まる。
『……ユウ……』
夜空の色をした少年の髪が陽光を反射して、唇から零れた声が白く風に滲んでゆく。
――あぁ、まただ。
今夜も夢の中に立ち、侑は思惟した。
物心のついたころから見始めた真冬の朝の夢は年々頻度を増して訪れるようになり、侑を悩ませ続けている。
『そこに……いて、くれ……』
――え。
刹那、夢であることを忘れ、自身の耳を疑った。少年の言葉が、以前と変わっていることに気がついたのだ。
ユウを探し、所在を尋ねていた彼は、今ではその居場所を知って、そこに留まり続けることを望んでいるようだ。
少年の呼ぶ、ユウという誰か。
それが侑自身ではないかとの疑念が、瞬時に湧き上がった。
と同時に、ひとりの男が脳裏に浮かぶ。
数日前の夕刻。ほんの短時間、弟と離れた駅前の雑踏で肩が触れた相手だ。
夜ごと夢に現れる少年とは背格好が全く異なるが、黒い髪と瞳が似通って見えた。実体を伴って眼前に立った長身の男の切実な声音は、少年のそれと同一の寂寥感を抱えているように感じられてならない。
『必、ず、そこで……、ユ……』
近づいてくるものの正体を知らぬまま、今朝も侑は蒲団を蹴って飛び起きた。
「あなたは誰。なぜ俺を呼ぶ?」
当然の如く滴り落ちた涙を拭いもせずに、細い指は心臓の辺りを強く押さえる。
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