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プラネタリウムはあっという間に終わって、名残惜しさが残る。
外に出るとまだ明るくて、なんか変な感じ。
「昼ごはんどうする?」
「実は、お弁当作ってきてるんだよね…」
「え?」
伊吹くんが手術で入院している間、私も何かしてないと落ち着かなくて、料理の勉強をした。
伊吹くんのお母さんみたいに、上手にはできないけれど、伊吹くんにちゃんと美味しいものを食べて欲しいと思ったから。
「俺、今日死んでもいい」
「縁起でもないこと言わないで」
外の芝生で、少し寒いけどお弁当を広げて。
伊吹くんは一つ一つお弁当のおかずを食べていく。
美味しいかどうか不安すぎて、つい伊吹くんを凝視してしまう。
「あんま見ないで…」
恥ずかしそうな伊吹くん。
「あ、ごめん」
私も食べようと思って、箸を持った。
「どれもめちゃくちゃ美味いよ…」
「本当?」
「うん…」
伊吹くんはそのまま下を向いてしまって。
もしかしてマズイのに我慢して食べてたのかと思って心配になった。
「…大丈夫?お腹痛くなった…?」
「違う…」
伊吹くんはそう言って鼻をすすった。
「なんか、幸せすぎて、泣けてきた」
「なにそれ…」
伊吹くんの目に滲む涙を見て、もらい泣きしてしまいそう。
「俺、ホント色々諦めてたから…」
伊吹くんはそう言いながら一言一言、ゆっくりと言葉を並べる。
「手術、絶対しないって、決めてたんだ。家族に迷惑かけたくなかったから」
「うん」
「でも、俺が手術するって言ったら家族みんな喜んでくれた。俺のわがままなのに、喜んでくれたんだ」
「うん…」
「部活のことも新奈のことも、やりたいこと全部、勝手に諦めてて。でも新奈のことはやっぱり諦められなくて…。だから、今こうやって隣にいてくれて、弁当作ってくれて、俺がしたかったこと、全部叶えてくれて。本当、夢見たい」
「夢じゃないよ」
夢じゃない。
「うん…」
伊吹くんはその後も目に涙を浮かべながら、お弁当を食べてくれた。
私は、伊吹くんのために料理を頑張ったけど。
伊吹くんはきっとそんな私の頑張りなんか比じゃないくらい、いつも頑張っていて。
そんな伊吹くんが私に望むことがあるなら、なんだって叶えたいと思った。
「今度は遊園地行きたいな」
「うん、行こう」
「動物園も行きたい」
「うん、私もパンダみたい」
「新奈の家にも行きたい」
「えー散らかってるよ?」
「新奈のいろんな表情が見たい」
「…うん」
「笑ってる顔、悲しんでる顔、怒ってる顔、全部見たい」
「…笑ってる顔だけでいいじゃん」
「うんん、全部」
「そっか」
私も伊吹くんとならどこに行っても楽しいと思う。
私も伊吹くんのいろんな表情を見たいと思う。
「ずっと新奈の隣にいたい」
「うん。私も、ずっと伊吹くんの隣にいたい」
「じゃあ、約束ね」
伊吹くんはそう言って小指を私の小指に絡ませた。
end.
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