水族館デート。

1/10

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ

水族館デート。

次の日、学校へ行く。 伊吹くんはもう教室にいて、いることを確認すると直ぐに目をそらした。 昨日の今日で伊吹くんに会うのが恥ずかしいのは私だけかな。 まあ、クラスではめったに話さないし、今後の接し方についてゆっくり考えよう。 そう思っていたのに。 1限目で、急に席替えが行われた。 私の席は窓際の一番後ろの席で、この席がお気に入りだった。 できれば席替えなんてしたくないなー、なんて思いながらくじを引く。 私が引いたのは窓際の1番後ろから2番目の席だった。 私のくじを覗き見してくる桃々。 「新奈はどこだった?」 「私は今の席の1個前」 「まじ!?私はその前の席だよ!?やったね」 今の席が究極にいい席だと思ってたけど、仲良しの桃々と後前になれてもっといい席を更新してしまった。 「もう2度と席替えしなくていい」 「同感!」 桃々とテンションが上がりながら、席を移動して椅子に座る。 隣に誰か来たなって思って顔をあげると、思ってもいない人がそこにいた。 「あれ、隣井上さん?」 伊吹くんだ。 え? 伊吹くんが隣の席…? 伊吹くんと目が合うと、伊吹くんは少しだけ口角を上げて笑った。 「どうも…」 どうもってなんだ、どうもって。 やばい、教室であんまり喋ったことがないから、いまいち距離感がつかめない。 私が挙動不審になっていると、伊吹くんは肩を揺らして笑っていた。 「伊吹、何笑ってんだよ」 「なんでもねーよ?」 私の後ろの席は、どうやら伊吹くんと仲のいい水島くんが着たみたいだ。 前言撤回。 今すぐ席替え希望します。 だって、伊吹くんは水島くんと仲がいいから、私の方に足を出して水島くんと楽しそうに喋ってる。 すごい、見られているような感覚になって居心地が悪い。 実際、私なんて眼中に入ってないんだろうけど。 それでも気になっちゃう。 「新奈?さっきからどうしたの?」 「なんでもないよ!あ、桃々トイレ行こ!」 「うん」 あの場からの脱出成功。 もし、桃々の席が離れていたら、そこに避難できたのに。 前後だから逃げるすべがトイレしかない。 運がいいのか悪いのか。 そしてトイレから戻ってくると、伊吹くんは私の席に座っていた。 いやいや。 水島くんと席近いんだからさ? わざわざ私の席に座らなくてもいいじゃん…? 「あれ、皆藤くん新奈の席にいない?」 桃々はそんなことを言いながら自分の席に向かう。 言う? 「どいて」って言う? 言えばいいんだよ。 だってそこは私の席なんだし。 でも、盛り上がってる伊吹くんの邪魔はしたくなくて、私は桃々の席の隣の席を借りることにした。 「ちょっと親に連絡していい?」 「どうぞどうぞ、私のことはお気になさらず」 桃々はスマホを取り出して文字を打っている。 ふと顔をあげると伊吹くんと目が合った。 今が言うチャンス? そう思っていると、伊吹くんは何も言わずに私の席から立った。 これって、私に気が付いて私に席を譲ってくれたってことだよね? 伊吹くんが自分の席に戻るのを確認して、私は借りていた席から立ち上がる。 その時、私の耳元で声がした。 「教室でもよろしくね」 伊吹くんの声がはっきり聞こえた。 だけど、周りは喋ることに夢中で、桃々もスマホの文字を打つのに集中していて、たぶんその声に気が付いたのは私だけ。 伊吹くんと目が合うと伊吹くんは不敵に笑った。 …教室でもカレカノごっこしようとしてる?
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加