嫉妬。

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しばらく経って、平常心を取り戻してきた私は口を開いていた。 「伊吹くんって手繋ぐの、好きだよね」 「あー、そうなのかもしれない」 シーンとした放送室の中で、自分達の声だけが聞こえる。 「なんか繋がってる感じがしていいじゃん」 「確かに」 私も映画館で伊吹くんと初めて手を繋いで。 すごく心地が良くて。 手を繋ぐって悪くないなって思ったよ。 「映画の時、本当は起きてたんでしょ?」 「なんのこと?」 「とぼけちゃって」 今みたいにギュッと優しく手を握ってきたじゃん。 そのせいで私は映画に集中できなかったんだよ。 「なんで…」 「え?」 「なんで好きでもない人に、こんなことできるの?」 「好きじゃない訳じゃないけど」 え? 「どう言うこと?」 「好きにならないで、とは言ったけど好きじゃないとは言ってない」 静かな空気が2人の中を流れていく。 伊吹くんが何を言っているのか分からなかった。 伊吹くんは私のこと、友達として好きってこと? それとも、好きでも嫌いでもないってこと? 好きじゃない訳じゃないって…。 自分の都合のいい解釈で頭が、いっぱいになろうとしている。 でもこれ以上期待してしまわないように。 こんな関係これで最後にするんだって思った。 「私とデートして楽しかった?」 「そりゃもちろん、楽しかったよ」 「ならよかったよ。伊吹くんの役に立てたなら満足。だから…」 ここで終わりだよって示したかった。 もう伊吹くんに流されないようにしなくちゃって思った。 「俺はまだ全然満足してないけど」 伊吹くんの言葉と共に、伊吹くんの右手が私の頬をそっと包んだ。 きっと、顔が真っ赤に染まってる。 「赤くなった」 「ちがっ…!これは夕日が反射してるだけ!」 「かわいい」 「だから!そんな事、女の子にサラッと言ったらダメだからね!?女の子は勘違いしちゃうからね!」 「新奈なら勘違いしていいよ」 勘違いしていいって…。 伊吹、さっきから言ってることがめちゃくちゃだよ…。 伊吹くんの顔が、ちょっとづつ近づいてきて。 本当にキスされるのかと思った。
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