嫉妬。

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私は家に着くまでの間、どうでもいい話をした。 天気の話とか、昨日見た動画の話とか。 本当に内容のないどうでもいい話。 なんか話してないと、どうしていいか分からなかった。 渉もずっと普通に相槌をうってくれていた。 「じゃ、またね」 「うん」 私の家の前で、私は渉に手をふる。 でも渉はそこで足を止めたまま動こうとしなかった。 「…帰んないの?」 私の問いに、俯いたまま何も答えない渉。 気まずい沈黙が私たちをのみ込む。 そっか、私が家に入らないから帰らないのかな…? 家に入るまで見届けてくれるパターン…? 「じゃあね」 私はそう言って、渉に背を向けた。 その瞬間。 「新奈はあいつのことが好きなの?」 背中で聞こえた渉のその言葉に、心臓が跳ね上がった。 急すぎて。 まだ自分でも整理がついていなかったから。 だから渉の真っ直ぐな問いに、私は言葉をつまらせた。 「あいつって…」 「皆藤ってやつのこと」 「あぁ…」 今思うと、私の行動は分かりやすかったのかもしれない。 前も駅のホームで渉に会った時、伊吹くんのこと好きなのかって聞かれた。 渉に同じことを2回聞かれるくらいには、言動に出ていたのかもしれない。 あの時は私もすぐに否定できたのに。 困っちゃったな。 認めたくないのに。 「好きとかじゃないよ…」 もう、こう言うしかないって分かってる。 自分の気持ちに気が付いてしまった今でも。 こう言うしか…。 だって、好きになっちゃいけないって言われたから。 だから好きにならないって思ってたのに…。 それができなかった。 こうなったらもう、自分にウソをつくしかないんだ。 「じゃあ、俺と付き合ってよ」 「え…?」 「俺と付き合ってほしい」 「いや、何言ってるのか…」 「本当に分かんない?」   渉の真剣な表情が、ひどく胸に刺さる。 「え、何かの冗談…だよね?」 「新奈」 「なに…?」 「俺は真剣に言ってる」 「うん…」 この真面目な空気に居心地の悪さを覚えた私を、渉は逃してはくれなかった。 「ずっと、幼なじみの関係を崩すのが怖くて言えなかったんだ。 だけど俺ずっと、新奈のこと…ずっと好きだった。異性として」 渉の言葉はなんだか、たどたどしくて。 1つ1つ噛み締めて言葉を出している感じだった。 「クラスメイト?あんなチャラチャラしてる奴に新奈を奪われるくらいなら、幼なじみなんて立場、もうどうでもいい」 渉は伊吹くんに初めて会った時、機嫌が悪かった。 そっか。 そういうことか。 じゃあ、さっき駅で唇に触れたのってやっぱり…。 なんで気が付かったんだろう。 ずっとこんな近くにいたのに。 なんでもっと早く…。 「新奈が好き。俺と付き合って」 渉の真剣な目線に、私は目を逸らすことができなかった。
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