秘密ごと。

1/7

18人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ

秘密ごと。

伊吹くんと最後のデートをしてから1ヶ月がたった。 学校でも挨拶をする程度。 最近席替えをして、伊吹くんとはクラスでもほとんど接点がなくなった。 渉はサッカー部の助っ人を辞めた。 怪我をしていた友達が戻ってきたからだ。 学校から帰る時も、また渉と一緒に帰るようになった。 全てが伊吹くんとデートをする前に戻った。 今は、あの期間が幻だったかのように感じる。 でも。 ちゃんと渉と向き合わなきゃって思ってるのに、気がつけばいつも伊吹くんを目で追ってしまう。 この気持ちも早く元に戻ればいいのにって思う。 「でね、桃々がさ…」 渉と帰宅中。 たわいもない話をしていると、渉は私の言葉を遮った。 「お腹空かない?久しぶりにどっか寄って行こうよ」 「うん、そうだね」 渉から誘ってくるのは珍しかった。 いつもどこか行きたい時は私から誘ってたし。 でも伊吹くんのことがあってから、どこか行く気になれなくて。 ずっと寄り道せずに帰るだけだった。 伊吹くんと初めてデートした駅前のカフェの前を通りがかる。 もう、いちいち伊吹くんのこと思い出すのやめたい。 「あ、あそこのカフェ、新奈前に行きたがってたよね?」 「あー…、でも、こっちの方が美味しそう!」 私は思わず、向かいにあるアイスクリーム屋さんを指差した。 だって今、あのカフェに入っちゃったらきっと、伊吹くんのこと色々思い出しちゃうから。 ごめんね渉。 「じゃ、アイス食お」 私たちは、アイス屋さんに入った。 「ん!美味しい」 美味しいけど今の季節、ちょっと寒いかも。 そう思っていると、渉は自分の制服のジャケットを脱いで、私の足元にかけてくれた。 いつもそうだ。 いつも渉は、私が何も言わなくても私の気持ちを汲んでくれる。 そんな渉の優しさが胸に刺さる。 ずっとこうやって私のことを気にかけてくれているのに。 その優しさに気がついていたはずだったのに。 「あのさ、やっぱ俺のこと男として見れない…?」 「いや…」 そうだよね。 ずっと待たせてしまってる。 早く結論を出さなくちゃいけないのに。 渉の優しさに甘えて、ずっと先延ばしにきてきちゃった。 「やっぱり私…「やっぱ今のなし。まだフラないで…」 「渉…」 俯いてしまった渉。 私が渉を傷つけてしまってる。 「そうだね…。もう少し時間ちょうだい…」 ごめんね、渉。 こんな自分勝手な私でごめん。 やっぱり私はまだ…。 渉のことは大事だけど、まだこんな気持ちで渉と付き合うとか、考えられないから…。 もう少し時間がたてば、きっと伊吹くんのことなんて忘れて、ちゃんと渉を好きになるから。 だからもう少し待って。 「分かった。わがまま言ってごめん」 「わがままなのは私のほうだよ…!」 だから謝らないで。 渉の苦しそうな表情を見ると罪悪感に押しつぶされそうになる。 渉のこと好きなのに。 好きなはずなのに。 渉の望む言葉を、どうしても言えない自分が情けなかった。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加