葛藤。-伊吹side-

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「…いつも思ってたんだけどさ。 新奈って俺にあたり強いよね。なんで?」 「それは、伊吹くんが頑固だからだよ」 「えー?俺、結構柔軟なつもりだけど」 「いや、私といる時の伊吹くんは超わがままだったからね?」 あれ、おかしいな。 割と、物分かりよくいたつもりなのに。 「わがままじゃないよ」 「わがままだよ」 「頑固だなー」 「頑固な人に頑固って言われた」 こうやって話していると、昔に戻ったみたいだ。 自分が病気だってこと忘れそうになる。 楽しくて、つい新奈の事からかってしまって。 そんな俺にいつもこうやって付き合ってくれる。 だから調子に乗ってしまう。 いつもそうやって現実逃避してた。 「…こんなところにいたら渉くんが悲しむよ」 「渉にはちゃんと言ってあるから」 「だったら尚更ダメじゃん」 ほら。 俺が新奈を巻き込んでしまったせいで、誰かを悲しませてしまってる。 俺は新奈に付き合ってほしいとか、そばにいてほしいとか、そんなことは望んでいない。 すぐ身を引くつもりだった。 少しの時間だけ一緒にいられたらそれでよかった。 「伊吹くん、あのね。私ちゃんと渉と話すから」 「話すって…」 何を話すんだよ。 ダメだよ。 ちゃんと渉くんの方を向いていてくれないと。 渉くんと付き合ってもらわないと、俺が困るんだよ。 「もう自分の気持ちに嘘つきたくないなーって思っちゃった」 「何それ」 「私ね」 「それ以上言わないで」 俺は新名の言葉を遮る。 「私、伊吹くんのこと…」 「それ以上言うなって…!」 自分の言葉でシーンと静まり返る室内。 自惚れかもしれない。 だけど今、新奈が言おうとしている言葉を聞いてしまったら、自分の気持ちを閉じ込めておくことができなくなるから。 言葉で聞いてしまったら、きっとこの先、新奈を俺の人生に巻き込んでしまうから。 新奈にはずっと、笑っててほしいから。 だから、言わないでほしい。 「私、伊吹くんのこと…全然好きじゃないから!」 新奈の声が病室に響く。 まるで、俺の心の中を覗かれているようだった。 「だからまた来るから!クラスメイトとして!自惚れないでよね」 新奈はそう言い捨てて、そのまま病室を出て行った。 また静まり返る室内。 俺は、 新奈のなんでもはっきり言う性格が好きだった。 新奈のコロコロ変わる表情が好きだった。 自惚れならそれでいい。 「それでいいよ…」
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