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それからは学食以外でも、新奈を見かけることが増えていった。
廊下ですれ違う時。
体育の時。
登下校の時。
気がつくと目で追っていた。
「やっぱ、あれ、彼氏だよな」
「なーに見てんの?」
「別にー」
放課後。
自分の教室から見える校門。
新奈はいつも男子と一緒に下校していた。
率直に羨ましいと思った。
俺は遠くからただ新奈の表情を見ることしかできない。
けどあの距離なら彼女が笑ったり怒ったり、いろんな表情を見ることができる。
たわいのない会話でふざけ合ったり笑い合ったりできる。
ただそれが羨ましかった。
2年生の春。
「まじで?」
俺は新奈と同じクラスになれた。
今まで遠くからしか見ることができなかったけど、同じクラスならクラスメイトとしてなんでもない話ができるかもしれない。
それだけで浮かれた。
同じクラスに新奈がいる。
そう思うと、にやけてくる自分が少し気持ち悪かった。
でも席が遠かった。
結局仲のいいグループも違って、同じクラスにいるのに喋る機会はほとんどなかった。
委員会も一緒になれなかったし。
一緒なクラスになれたこと以外、ことごとくついていなかった。
自分から話しかけにいけばよかったんだけど。
新奈にはそれができなかった。
別に人見知りするタイプでもない。
割と誰とでもすぐに仲良くなれるはずなのに。
新奈に対しては、言葉が喉の奥でつっかえてしまう。
そうやって、何もできずに一学期が過ぎていった。
二学期に入って早々。
スマホをなくした俺は、放課後、教室まで探しに行った。
そこで新奈が、教室に残っているのが目に入った。
心臓が大きく飛び跳ねた。
教室に入るのを躊躇したけれど、スマホないと困るし。
これはある意味チャンスかもと思った。
2人きりの空間になれば、沈黙の気まずさから新奈相手でも喋れるかもと思った。
俺が教室の扉を開くと、新奈は振り向いた。
新名が俺を見ている。
「あれ、井上さんだ。まだいたんだ?」
できるだけ自然に。
ただのクラスメイトとして。
そう思いながら、言葉を選ぶ。
スマホは教室にあった。
それをポケットにしまうと、新奈はまだこっちを見ていた。
「日誌まだかかりそう?手伝おうか?」
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