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とっさに出た俺の言葉に、新奈はびっくりしている様子だった。
それもそうだよな。
全然喋ったことない奴から、急に手伝うとか言われてもって感じだよな。
俺だってそう思うよ。
けど言ってしまったものはしょうがない。
俺は、新奈の席に近づく。
今までにない距離感に新奈がいる。
それだけで舞い上がった。
あれ、そういえば今日は彼氏と一緒じゃないんだ。
なんで1人でいたんだろう。
そんな疑問が頭に浮かぶ。
日誌を書き終わった後、無意識に言葉に出ていた。
「ねえ、今日は彼氏と一緒に帰らないの?」
彼女からの返答は意外なものだった。
だって、彼氏じゃないって言うんだから。
彼氏じゃないんだ。
へー。
そうなんだ。
「じゃあ、ちょっとお願いしたいことあるんだけど」
今しかないと思った。
今日を逃したら、また喋ることすら出来なくなると思った。
「───今から俺とデートしない?」
かなり強引だった気がする。
今思うと、なんであんなにしつこく誘えたのか分からない。
ただ、その時は必死だった。
でも、俺は普通の人とは違うから。
親しい関係になったら、病気のこと言わなくちゃいけない時が来るかもしれない。
それは嫌だった。
だから別に付き合ったりとか、そんなことまで望んではいなかった。
ただ、新奈の隣で笑っていたかった。
俺の無理難題に、新奈は動揺しながらも答えてくれていた。
俺の言葉で、彼女が次々に表情を変える。
それがすごく嬉しかった。
新奈が俺の言葉に反応してくれることが嬉しすぎて、つい調子にのってしまう。
今まで誰にも出すことがなかった感情が、次々と溢れ出る。
もっともっと新奈のいろんな表情が見たいって思った。
だけど、新奈が俺に都合のいい言葉をくれると、俺は一気に現実に引き戻された。
なにやってんだろうって思った。
嬉しいのに、全然嬉しくなかった。
ただ、俺の願望を新奈に押し付けているだけだってことに気づいちゃったから。
こんなの虚しいだけって。
分かってるのに。
俺はまた、新奈をデートに誘っていた。
新奈と過ごす時間が増えるたび、俺はどんどん貪欲になっていく。
頭じゃ分かってる。
新奈には渉くんがいる。
俺はただ、新奈の横で笑顔が見たかっただけ。
何度も何度も自分の欲求と闘った。
渉くんと新奈がキスした時。
罰が当たったと思った。
新奈には何も望んでないフリをして、自分の欲求に逆らえなかった俺に、罰が当たったのだと思った。
もう、ここまでにしとけよって、神様に言われた気がした。
新奈は俺とのデートやめたいって言うし。
こんなに辛くなるなら、最初から誘わない方が良かったのかもな。
でも、もし俺が普通の身体なら。
渉くんと張り合ってでも新奈の隣にいたいと思ったかもしれない。
でも、俺は普通じゃないから。
ここが引き際だと思った。
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