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ずっとこのままでいたいなって思っていたら、点滴のエラー音が鳴って。
でも伊吹くんはそのまま動かなかった。
「なんか鳴ってるよ?」
「いつものことだから大丈夫」
って、大丈夫じゃないから鳴ってるんだよね?
「ほら、看護師さん呼ばなきゃ」
「もうちょっとだけ」
伊吹くんはすっかりいつもの伊吹くんに戻っていた。
でも外で看護師さんの声が聞こえて、すぐに布団から顔を出した。
廊下を通りかった看護師さんが音に気がついて入ってきたのだ。
看護師さんは手慣れて様子で、点滴を触って、「また鳴ったら教えてね」と言って出ていった。
「危なかったね」
そう言った伊吹くんは、なんだか嬉しそうで。
もう一度私に笑ってくる日が来るなんて思ってなかったから、すごく嬉しかった。
それから伊吹くんはもうすぐ退院することを教えてくれた。
「また学校で会えるの…?」
「会えるよ。なんだと思ってたの?」
「だって、症状とか全然教えてくれないから。どれくらい悪いとか、そんなに心配しなくていいとか、分からなかったから…」
「大丈夫。透析さえちゃんと受けてたら大丈夫だから」
「本当?」
「本当」
「今回のことで悪化したとか…」
「あ〜…めちゃくちゃ怒られたけどね。でも大丈夫」
「本当に本当?」
「しつこいな。なに?そんなに心配?」
「だって、伊吹くん大事なこと言ってくれないから…」
「これからは言うよ。新奈にかっこ悪いって思われたくないから」
「やっぱりナルシスト…」
「ナルシストではない」
やっと伊吹くんから大丈夫って聞けて安心した。
涙が溢れそうになったけど我慢した。
「また新奈のこと、デートに誘っていい…?」
「え〜どうしよっかなー」
いつも意地悪な伊吹くんにちょっとだけ意地悪したくて。
「私のこと、好きにならないならデートしてもいいよ」
「それ、俺の真似してる?」
「どーだろ?」
「あーあ。それじゃデートできないじゃん」
え?
「それって…」
そう言うこと…?
「本当はわかってるくせに」
「ちゃんと言ってくれなきゃ分かんない」
「これからも新奈の隣にいたいなーって」
「それはつまり?」
「ねー、言わせようとしてんのずるい」
「だって。自信ないんだもん。私ばっかり好きみたいで」
「あ、今。好きって言った」
「分かってるくせに」
ずっと誰にも言えずにしまい込んでいた想い。
今度こそ伊吹くんに届いてほしい。
「…俺も」
「俺も?」
「好きだよ、新奈!」
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