これからも。

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これからも。

それから一週間程して、伊吹くんは学校へ来た。 みんな心配していたから朝からずっとクラスメイトに囲まれていた。 伊吹くんは腎臓移植をすることになったらしい。 伊吹くんのお兄さんが20歳になったのを機に、提案されたそうだ。 移植はしないって決めてたらしいけど、今回はお兄さんの好意に甘えることにしたみたい。 昼休み、屋上で伊吹くんと2人きりで会う。 「手術怖くない?」 「めちゃくちゃ怖い。助けて新奈」 「手、握っててあげよっか」 冗談っぽく言ったのに。 「握ってて。ずっと」 そう言って手を差し出す伊吹くん。 私はその手をぎゅっと繋いだ。 「なんで、移植受けることにしたの?」 「えー、だって、新奈ともっといっぱいデートしたいし」 「デートならいつでもできるじゃん」 「だって透析の間会えないし。もっと一緒にいたい」 そんなことを目を見つめて言ってくるからドキッとする。 もう本当伊吹くんには敵わないなぁ。 「どれだけデートする気?」 照れ隠しで、こんな可愛げないことしか言えない自分とは大違いだ。 「えー、毎日?」 「…毎日は大変じゃない?」 「だって、新奈と恋人っぽいこと、たくさんしたいし」 「もうしてるじゃん」 「もっとだよ」 ああ、もう本当。 伊吹くんって甘え上手。 ドキドキしすぎて、どうにかなりそう。 「新奈のお弁当も食べたいし」 「げ。覚えたんだ」 料理は自信ないし、忘れてくれててよかったのに。 「忘れるわけないよ」 「…うん」 伊吹くんが私としたいことを語る度、胸がぎゅっと締め付けられる。 昔言った何気ない言葉も覚えていてくれた。 心が満たされていくのが分かる。 こんな感情が私にもあるんだって、伊吹くんのおかげで気がついた。 「俺、病気だと思って色々諦めてたけど、諦めなくていいんだなって新奈のおかげで気がついたんだ」 「え?」 「だからもっと貪欲に生きようと思って」 「そっか」 私も伊吹くんのおかげで気づけたことたくさんあるよ。 伊吹くんのこと諦めないでよかった。 自分の気持ちに正直になれてよかった。 こんな目まぐるしい感情を抱くのは伊吹くんだけだよ。 「またしばらく入院になるけど…」 「うん…。寂しいけど待ってる」 「俺、寂しすぎて、手術逃げ出しちゃうかも」 「いや、本末転倒じゃん」 「だから、手術頑張れる何かちょうだい?」 「え、なにかって…」 伊吹くんは私の頬に手を添えた。 改めて向かい合って見つめられると、緊張で汗が滲む。 そのままゆっくり伊吹くんの顔が近づいてきて。 唇が触れた。 その時間がすごく長く感じて。 ぎゅっと瞑った目を少しずつ開けると、伊吹くんはこっちを見ていて。 それだけでドキドキする。 「…恥ずかしいから見ないで」 「なんで?もっと見せて」 伊吹くんはそう言ってまた唇を重ねた。
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