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伊吹くんは手術のために、また入院した。
お見舞いには来ないでほしいと言われた。
かっこ悪いところを見られたくないとかで。
だからそれ、伊吹くんが勝手にそう思い込んでるだけなんだけどな。
けど結局、私の希望は聞いてくれなかった。
寂しいけど。
私も不安だけど。
でもきっと、元気になって伊吹くんが帰ってくる。
そう思うと、私も自分のことを全力で頑張ろうと思った。
***
そして伊吹くんの手術は無事成功したらしい。
しばらくして退院すると連絡をもらって。
土曜日に会う約束をした。
久しぶりに伊吹くんと会うと思うと、ちょっと緊張する。
放課後じゃなくて、こうやって休日に待ち合わせするのは初めてだ。
今まではいつも自分の着たい服を着ていたけど。
今日は伊吹くんにどう思われるか気になって、なかなか選べなかった。
メイクやヘアアレンジもいつも以上に時間がかかった。
まるで自分が女の子になったみたいな気分。
って元々女子であることには変わりないけど。
今日は快晴でいい天気。
頬を揺らす風は冷たいけど、お日様の光がほんのりと暖かい。
「少し早く着いちゃった」
学校の最寄りの駅で伊吹くんを待っていると、水島くんに会った。
「あれ井上さんじゃん。お、もしかして伊吹と待ち合わせ?」
水島くんには伊吹くん情報が筒抜けだった。
「うん。無事退院したみたいだね」
「な。あいつ俺から連絡しないと連絡よこさねーし。こっちの身にもなれっつーの」
「私もまたお見舞い来るなって言われてた」
「やっぱあいつ、ひどくない?」
「誰がひどいって?」
水島くんと話し込んでいる間に、伊吹くんが到着していたようだ。
伊吹くんは水島くんを羽交い締めしている。
「伊吹、元気そうでよかったよ」
「なんで蓮がここにいるんだよ」
「俺?俺はこれから彼女に…って時間やべー!じゃ、井上さん楽しんできてね!」
水島くんはそう言いながら慌てて走って行く。
本当に彼女さんのことが大好きなんだなと思うと微笑ましかった。
「蓮となーに話してたの?」
そう言いながら伊吹くんは私の顔を覗き込んだ。
その仕草に思わずドキッとした。
久しぶりに見る伊吹くんは、思っているよりも元気そうで安心した。
「なにって大した話してないよ?」
「楽しそうだった」
「え?」
「なんで蓮と話してる時、そんなに楽しそうなの?」
そんな自覚なかったけど。
多分思い当たる節があるなら、
「伊吹くんの話してたからかな」
私と水島くんが話す内容なんて、いつも伊吹くんのことだけだよ。
「だから機嫌直して?」
私はそう言いながら伊吹くんの頭をポンポンした。
すると伊吹くんにその手を掴まれる。
そしてそのまま指と指を絡ませてきた。
「会いたかったよ、新奈」
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