カフェデート。

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「あー、おいしかった!」 お店を出て、二人で駅へ向かう。 電車に乗る駅は一緒で、方向が違うみたいだから、皆藤くんとは駅でお別れ。 思っていた以上に楽しかったかも。 皆藤くんも楽しんでくれてたかな? そう思って顔を覗き込むと目が合った。 「新奈の食べっぷり見てると、俺まで顔がとろけそうだったよ」 「な!とろけてなんてないし」 「とろけてた。どろっどろにとろけてた!」 「ちょっ、どろっどろってやめてくれる?!」 必死に抵抗する私を見て、お腹を抱えて笑う皆藤くん。 なんか、そんな皆藤くんを見ていると、皆藤くんのペースに乗るのも悪くないなって思えてきた。 「新奈は思ってた通りの人のかわいい女の子だったなー」 「なにそれ」 「そのまんまの意味だよ?」 皆藤くんは本当に女子を褒めるのが上手だ。 「皆藤くんも実際喋ってみると喋りやすくて楽しかったよ」 「俺のこと今までどんな風に思ってた?」 「モテる人」 「なにそれ」 「そのまんまの意味!」 何だよーって言いながら皆藤くんは私の髪の毛をクシャっとした。 何気なくこんなことするから、たちが悪いと思う。 きっとそんな気がない子にも、自然とこんな事してるんだろうな。 これじゃあ、勘違いされちゃってもおかしくない。 でも私は、勘違いするわけにはいかないんだ。 だって皆藤くんのこと、好きになったらダメなんだから。 「てかさ、名前で呼ぶんじゃなかったっけ?」 「もうデート終わったんだからいいでしょ」 「家につくまでがデートですー」 「遠足みたいに言わないで」 なんでそこまで名前呼びにこだわるかな。 私は今でも恥ずかしいのに。 なのに皆藤くんは、前から私のことを名前で呼んでいたみたいに自然に呼ぶし。 やっぱりモテる人は違うなって思った。 「名前、呼んで?」 「やだよ、恥ずかしいもん」 「呼んでくれなきゃ、もっと恥ずかしいことするけど?」 そう言って、皆藤くんは私の歩く前に立ちはだかったから、ぶつかりそうになった。 そうだ、皆藤くんは私が”うん”と言うまで引き下がらない人だった。 「恥ずかしいことって、なに?」 「んー?キスとか?」 いやいやいや。 「さ、さすがにキスはなしでしょ!?」 「なんか、きっぱり言われるとさすがに傷つくんだけど」 「あ、ごめん」 いや、まって? あからさまにしょんぼりしだした皆藤くんにのせられて、つい謝ってしまったけど、おかしいよね? もう一回頭の中を整理しよう。 皆藤くんはデートってものを経験したくて私をデートに誘った。 面倒は嫌いだから、皆藤くんを好きにならなさそうな私を選んだんだ。 デートができればそれでいいんだよね? そもそのあのカフェに行きたかっただけじゃないの?! ここで私が、照れ臭そうにキスに同意したら、皆藤くんは面倒くさいんだよね? やっぱり皆藤くんの考えていることは、さっぱり分からない。 「名前、呼んで」 もう一回、真剣な顔でそう言う皆藤くん。 くぅ…。 やっぱり皆藤くんてしぶとい。 皆藤くんの声はさっきより低くて、なんかドキドキする。 …まあキスされるよりは。 「…伊吹くん」 もう一度慣れない名前を呼ぶ。 やっぱりちょっと恥ずかしくて、皆藤くんを直視できなかった私は下を向く。 すると目の前に立っていた皆藤くんは、私に一歩近づいて、私の顔を覗き込んだ。 「もう一回」 まさか覗き込まれるなんて思っても見てないから動揺する。 しかも顔、近いし。 「…伊吹くん?」 「くん外して?」 「…伊吹」 「よくできました」 皆藤くんはキレイな顔で笑って、私の頭を軽くなでた。
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