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枯井戸の基地
枯井戸内部に取り付けた梯子で井戸を降りていくと、大人が這って通れる大きさの横穴が空いている。その横穴に身体を滑り込ませてしばらく進めば、拓けた空間に出る。
ここがグルテの基地である。四隅には白く発光する石が置いてあり、中はいつでも明るい。後ろ暗い伝手から手に入れた魔法石だが、重宝している。
寝床と机を兼ねた木の板。その横には大量の紙と、紙がなかったときにメモを刻んだ石板が積んである。あとは、少ない服がしまわれている木箱、駄菓子の材料と数日分の食料の入った木箱、大小様々の瓶や器、水瓶――が整列している。
グルテは食料箱からコムギ粉の袋を取り出すと、内側に目盛りを刻んだ木の器に、慎重に移す。同じ様にいくつかの粉末と水を計り、ぶつぶつと呟きながら机に並べていく。
「火炎の粉は前回から半目盛り増やす……」
「水は少なくていい……」
「あと……あの、怪しいやつは……あった」
揃えた材料と種類と量を紙に書き付けたら、静かに深呼吸をする。作るのはガムだ。
粉類をすべて合わせてから、少しずつ水を加えて練る。この間、口は開かない。昔はうっかり酸欠になることもあったが、十五年近く同じ作業を繰り返していれば呼吸を乱すことはない。
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