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 午前中の授業が終わっても、生徒たちの間では今朝の話題が続いていた。  わたしも何があったのかは気になっていたけれど、大きな事件ならそのうちにニュースになるだろうし、そうでなくてもある程度情報がまとまれば誰かから話が入ってくるだろう。  学内の食堂は珍しく満席で、わたしは五分ほど待った後、ようやく四人掛けになっているテーブル席の一つが空いたので、そこにプレートを持って向かう。選んだのはサンドイッチとスープ、サラダのセットで、ただあまり食欲がないから半分の量でも良さそうだ。  わたしが座ったのとほぼ入れ替わりに、右側の席に座っていた男子が立ち上がり、行ってしまった。  ――また空席だ。  わたしは偶然偶然と呪文のように唱えながらオニオンスープに口をつける。  対面に座った二人組の女子は、今朝の話題を楽しそうに話している。話の内容から、どうも誰かがナイフで刺されたらしい、ということは分かった。  そういえばつい先週だったか。近くの公園でも同じようにナイフによる傷害事件があった。警官が注意して下さいとビラを配っていたことを思い出す。  その二人も、わたしがトマトと卵のサンドイッチを一つ食べ終える前に、席を立って行ってしまった。他のテーブル席は埋まっているのに、新しくわたしの席にやってくる人はいない。  こういう状況に遭遇する度に、わたしには本当に幽霊でも憑いているのかも知れない、なんて考えてしまう。それともわたしが知らないだけで、多くの人から勝手に嫌われているのだろうか。  小さい頃からわたしは、人が苦手だった。  知らない人に囲まれるとすぐに泣いてしまったし、そもそも人が多い場所に行くだけで吐いてしまったそうだ。  だから、もし孤独に愛された人生だというのなら、わたしにはその方が良いのだと思っている。そこに寂しいとか、悲しいとか、そういった感情はなく、ただ自分はあの人たちのようにはなれないのだなあ、という、妙に達観した視線を大口を開けて笑っている女子の集団に向けるだけだ。  結局サンドイッチは一つ食べ残してしまい、ごめんなさいと謝りながらプレートを返した。
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