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 目が覚めるよりも早くに、病院独特の綺麗にし過ぎた匂いがわたしの鼻を突いた。  真っ白な天井と心拍を測る機械音、それに母親の泣き顔が視界に入る。母はわたしの名を何度も呼びながら「よかった」と繰り返したけれど、わたし自身は一命を取り留めたことよりも、自分がずっと彼によって守られていたんだという驚きの方が、何よりも支配的だった。  ただその後、わたしは決して自分が助かった訳じゃなかったという事実を突きつけられることになる。  意識を取り戻すと、そう時間を置かずに担当だという医師が部屋に入ってきた。 「すまないが実は」  まだ若そうな先生だったが、彼が神妙な顔つきをしてそんなことを言い出すものだから、わたしはてっきりナイフの傷が酷いのだと思ったけれど、それは違った。 「そうじゃないんだ」と苦笑を浮かべる素振りを見せてから続ける。  ――実は君の体の中、具体的に言えば胃に腫瘍(しゅよう)が見つかった。  腫瘍、という言い方だったが、よくよく聞いてみればそれはガンだった。それも進行が早く、わたしの五年生存率は十%未満という、何とも酷い数字のものだった。  二週間ほどで一時退院できたものの、わたしの人生はそれから半年ほどで幕を閉じることになった。
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