ひつじが一匹

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 女性が苦手だと恥ずかしそうに告げる美少年に噴き出しそうな鼻血を堪えつつ、奇遇にも近しい境遇の私が相談に乗ってあげることになったのは自然な流れである。  話を聞いたところによると、道枝くんは私のように屈折した偏見によって異性を忌み嫌っているわけではなかった。ただ、がつがつと迫り来る獰猛な女性に怯えてしまうらしい。ほら、かわいいかよ。そんな話をしつつ二十二時にきちんと解散した。私が先輩なので当然としてご馳走してあげると、「次回は僕に奢らせてくださいね」と頭を下げてくれた。  そんな社交辞令を守る道枝くんが何かと理由をつけてそれから毎週誘ってくれるようになり、なんともう三年程度この関係が続いている。仕事のある金曜日はほとんど毎週欠かすことなく二人で飲んでいるのだ。道枝くんは、わざわざ先輩である私にご馳走するための言い分を律儀に作ってくる。今日の領収書の記入なんかも、まさにそれである。  したがってもれなく残業になるわけだけど、それを乗り越えたので今宵も合法的に美少年とお酒を飲むべくいつもの居酒屋チェーン店へと足を運んだ。おそらくだけど道枝くんはこうやって懐に入り込んで営業成績をキープしちゃうんだろうな、と分析してみた。他人に土足で踏み込まれるのが大っ嫌いな私でさえ、迂闊にも心を開いてしまっているのが良い例だ。  約束の十九時を僅かに過ぎてしまったせいで、道枝くんから先に着いていますという連絡をもらった。入店してすぐ「待ち合わせです」と店員さんに伝えれば店内奥の席に案内される。
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