ひつじが一匹

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ひつじが一匹

「それって偏見じゃない? 慣れたら絶対に恋愛できるし、早く克服したほうがいいよ」 「恋愛で失敗したことがあるの? そんなの忘れて早く克服したほうがいいよ」 「地球上の生物なんて半分は男なんだから生きにくいでしょう? 早く克服したほうがいいよ」    上記は、うっかり男性が苦手な素振りを見せてしまった私に対して、各方面から投げつけられた台詞のごく一部である。それにしても、なぜこんなにも着地点が同じなのか。芸もセンスもないので、いい加減恥じたほうがいい。  実際はこのようなことを八十六回は言われているし、似たような台詞ばかりでいちいち覚えてもおけないし、実のところはいまだ反省も克服もしていない。反論の余地があるとすれば、余計なお世話だと叫んで生卵を投げつけたい。私だって二十八歳ともなれば、男性が苦手といえども日常で接するのに困らない程度である。迷惑をかけていない限り放っておいてくれ。あと、私を説教して勝手に悦に浸るな。  叶うなら男性の苦手を克服する前に捻くれたこの性格を克服したい。そのほうが世のため人のため地球のためだと思う。私が心優しいピュア人間になれば、草木が喜んで温暖化も和らぐ可能性がある。  そんなことを考えながら、自分のデスクで計算機を打っていた。数字がぴったり合うと気持ちが良いし安心するし達成感もあるので感情の勘定は大変お得だ。こうして誰にも迷惑かけず、私は自分自身の内側だけで精神の平穏を保っているというのに。 「小林さんって、あんな美人なのに独身なんだよな」 「あのキツイ性格は、いくらキレーでもきびしいわ」 「もったいないよな、せっかく美人なのにさ」
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