ひつじが一匹

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 もしこれが確信犯なら、道枝くんは天使じゃなくて小悪魔だ。彼は声に出す前に網目の細かいフィルターを通すタイプだから、一語一句、彼の選んだ言葉で伝えてくれているのだろう。  ほんとうに女の子に慣れてないのかもしれない。たしかに社内でも女性とは適切な距離を置いているように見受けられる。そうよね、こんな綺麗な子を社会で野放しにしておいたらとっくに食べられちゃっているものね。どこまでも私の理想を崩さずにいてくれる、清らかな美少年よ。どうもありがとう。  男嫌いな私のときめきは美少年からしか摂取できないし、それが法律で許されているのは道枝くんだけなのだ。通勤電車で見掛けたリアル美少年中学生から摂取しようとしたら、まあ、ほら、いろいろ大変なことになっちゃうでしょ。  飲み慣れたほうのハイボールを舌に馴染ませてみながら、私は適当に謝っておいた。 「ああ、ごめんなさい。気をつけます」 「じゃ! なくて! 退勤したら、もう僕には雑な口調で話してほしいんですよ」 「わかったわかった。あんまり、職場の人間と距離を詰めるのは好ましくないんだけどな」 「もう3年も飲んでる仲ですよ、ちょっとくらい、距離、縮めさせてくださいよ、うう」  知多ハイボールを飲みながら、妙な熱量の道枝くんが説得紛いなことをしてくる。潔癖症ではなかったようだ。それもそれでいいね。  そして正直私は後輩に慕われる側の人格者ではないのでこんなふうに擦り寄ってきてくれるとどうしようもなくかわいいのだ。道枝くんの可愛さは、掘っても掘っても湧いてくる。まるで、かわいさの油田。つまり私は石油王か? 「ハイボール1杯目で、よくそんな酔っ払えるねえ」 「コスパいいんです、僕」 「ちなみに私は、角ハイのほうが好みでした」 「小林さんもコスパがいいですね、僕といっしょ」 「ほらほら、焼き鳥でも食べなさい。空腹にお酒はよくないよ」
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