ひつじが二匹

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 そんななかで私にもラフな挨拶を繰り出してきたのは、我々ともうひとりの同期である女性社員だ。彼女はこちらに向かって歩いてきたため進むのは逆方向になる。三人ともそれぞれ部署が異なるのでなかなか揃って会えないせいか、思わず足を止めてしまった。  同期愛と呼べるほどの熱量はないけれど、私が社内でプライベートの連絡先を交換している数少ない人たちだ。 「おはよ、アラキレイ」 「おはよう、アラキレイ」 「ありがとう、それ守ってくれて」  松葉さん私がお決まりの挨拶をする。新木礼という名前の彼女を挨拶の時だけフルネームで呼ぶことにしているのだ。何故かというと会うたびに「あら、綺麗」って言っているみたいだから。 それに実物の新木レイも容姿だけならかなりお綺麗だ。いつもパンツスーツに身を包んでいるところも格好良くて洒落ている。美少年っぽい。 「新木、最近どうよ」 「どうもない、そろそろ人生に飽きてきた」 「よく言うだろ? 人生とは死という名のアトラクションに並ぶ行列のこと」 「いや、聞いたことないけど」  意味のない二人の会話を聞き流していると、ふと思い出したようにレイちゃんがよく知っている名前を出した。 「そういえばさっき道枝くんに会ったんだけど、あの子ほんと可愛いね」  道枝くんは松葉さんの直属の部下なので共通した話題の一つとなったらしい。ちなみに新人の道枝くんが松葉さんの下につくと決まった時、レイちゃんは「へえ、エロ」とコメントしていた。誰も追及はしなかった。 「わかる、俺のネロちゃんな」 「俺の? ネロちゃん? なにそれ萌えるな?」 「同期と後輩でエロ同人するなよ」 「まったく懐かない道枝くんを松葉が猫みたいに可愛がってるところまで見えた。道枝くん首輪が似合う」
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