ひつじが一匹

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 そうだ、私はデキるウーマンだ。独身貴族、働かねばならぬのだ。他の女性たちが子どもを産んで国に貢献してくれるのなら、私は仕事をして税金を納めて生きるのが使命。  頷いて領収書を受け取ると、道枝くんはきらきらと顔面を輝かせて「大変ありがとうございます! 小林さん、いつも優しくしてくださるから甘えちゃうんですよねえ」とお礼を告げた。それから「ごはん奢らせてください? あとで連絡しますね」と耳元にくちびるを寄せて、囁くように言葉を残していった。  どいつもこいつも要領の良い奴ばっかりで嫌になる。私なんて国の将来まで考えているというのに、みんな自分のことばっかりじゃんか。  道枝くんの第一印象は、天使である。柔和に微笑んでいて花束みたいな甘い香りがして穢れのない無垢な存在。私の嫌う男臭さがまったくないのに女特有のじめっとした湿度もなく、どこまでも清らか。彼の入社当時、多くの女性社員が色めいたけれど私からすれば「こんなにも性の匂いがしない美少年を汚してくれるな!」と勝手に思ったくらいだ。大学卒業後の新卒入社、そこから数年が経過しているのでとっくに成人しているのだが天使のような道枝くんには美少年という表現がしっくりくる。  領収書の記入の片手間でどうでもいい話を続けるが、端的に言って私は美少年が好きだ。とても、だいすきだ。男嫌いのくせに! けっきょく顔が良ければいいのか! 若い男が好きなのか! などと野次を飛ばされてもかまわない。好きなのでどうしようもないのである。
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