エピローグ

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 「あーっはははははっ!ヒィいいいっ!あーおかしぃい!こどもか!中学生か!」  翌日正午。綾乃と「乾杯」するなり千佳子は昨夜のことを愚痴り始めた。  せっかくいい報告を先にしたかったのに、出てくるのは愚痴ばかりだ。  「顔に書いているのよ?どこ行くんだ。それは本当に友人かって。なのに『言ってない!知らん!』って」  「それで帰る千佳子も千佳子でしょ。彼泣いてるんじゃない?」  「泣いとけばいいのよ、泣いとけば」  千佳子はフンと鼻息荒くして「ビールおかわりください」とたまたま近くにいた店員を呼び止めた。まだ乾杯して3分だ。いくらここが洒落たカフェでビールが筒の細いグラスに入っていてもちょっと早い。  「彼も予想外なんじゃない?だって一緒に住んでも千佳子結構出歩くでしょ?」  「うん。普通に遊びに行くわよ」  「土日べったりだと想像してたのに、あまり相手にしてくれないから拗ねてるんじゃない?話を聞いている限りだと友達少なそうだし」  確かに槇の口から友人の話は聞いたことはない。出てきたのは可愛がっていた後輩ぐらいだろうか。その点、千佳子は綾乃もそうだが、悦子や倫子とも会っているし、他にも会う友人はいる。  ちなみに先週悦子と倫子に会い報告した。坂本にも連絡を入れ、佐野のことを詫びた。「選ぶのは自由なんだから僕に謝らなくてもいいよ」と坂本は笑ってくれた。そして佐野にもいいひとを探してほしいことは念押しした。きっと何かあったんだ、ぐらいは勘づいているかもしれない。  その頃、槇は自宅マンションで悶々としていた。  千佳子が週の半分、大体木曜の夜から月曜まで共に過ごすようになったが、槇が想像している以上に彼女は自由だった。もっとべったりなのかと思っていたし、自分はそのつもりでいた。そのせいで気持ちも時間も持て余していたのだ。  「……どうすりゃいいんだ」  いつもなら昼過ぎぐらいまで寝て、映画を見ながら昼間から酒を飲んでまた昼寝をしてとぐーたらしている。夕方ぐらいに一人で飲みに出かけたり、今は少なくなったが仕事の付き合いに出かけたりもした。  元々基本的にひとりで過ごしていた休日だったが、そこに千佳子が加わり恋人を尊重しようとしていたのだが、これが誤算だった。  千佳子は恋人ができても一人行動するタイプで槇は置いてきぼりを食らっていた。  そのため、今日もまたどう時間を潰そうかと考えている。そもそも千佳子は今夜こっちにくるのかすら分からない。昨夜素直になれない槇に千佳子が「じゃあ帰る!」と言って本当に帰ってしまったのだ。  「一緒に住みたい」と言ったのはどこのどいつだ、と言いたいぐらい槇は千佳子の行動が分からなかった。ただまあ、あまりべったりしすぎないところは少しホッとした部分でもある。正確には拍子抜けした、という方が正しいが。  
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