白よりのグレー

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 午前二時踏切に、望遠鏡を担いでった〜  千佳子は鼻歌を歌いながら自分の足下で避妊具を着ける男をぼんやりと眺めていた。カラオケは延長し結局2時間歌った。午前二時。帰ろうとカラオケ店を出たところでキスされた。さっきまで楽しく歌っていた口が千佳子を強請る。久しぶりにしたキスは思っていたよりもしっとりとして心地よかった。    誘われるがままにホテルに行き、部屋に入るなりなし崩しにベッドに転がった。服を剥かれ荒々しいキスを繰り返す。風呂にも入っていないのに、槇は嫌がる千佳子を上から下まで丁寧に舐めた。本来千佳子が襲う側だ。いつもなら早々に男に跨るのだが、今夜は違う。  悉く仕掛けを交わされた上、指で舌で転がされて呆気なく達した。酒の力もあったのだろう。久方ぶりにこじ開けられた蜜口は今、ハクハクと口を開いて槇を待ち構えている。  「やられっぱなしは性に合わないの」  「だろうな。でも俺そういう女、黙らせるの大好き♡」  よいしょ、と起きあがろうとした千佳子を槇は組み敷くと昂ったそれを蜜口にあてがった。ぐりぐりと膨らんだ蕾に先端を押しつけられ悲鳴を漏らす。    「…ん、ぁ、」  「あー、あったけー」  まるで温泉に入ったような感想を溢すと槇は遠慮なく奥まで腰を押し付けた。根っこまで飲み込まれた茎がゆっくりと引かれる。てらてらと光る体液が千佳子の気持ちを表すようだった。  「悪いけど、今夜は主導権は渡せねえ」  「っ、あ、…っ、ぁあっ」  「また今度な」  今度なんてあるの?とぼんやりとした頭で思う。  だが、思考はそこで止まる。あとはもう槇に翻弄されるままだった。  20代はそれなりにモテた。適度に遊んだし真面目な恋愛もした。  30代になって遊びはやめた。というか元々それほど軽い方ではない。人生でワンナイトも片手で足りるぐらいだ。  人間にはどうしても欲望がある。特に酒を飲んでブレーキなんて効かないなら尚更。若い時はそれでもよかった。人生何事も経験だと虚しく一人でホテルを出ても笑い話にできた。  「…怠い」  久しぶりに感じる腹部の鈍い痛み。違和感に顔を顰めて大きなため息をついた。知らない天井。いや、知っているのは知っている。昨晩この天井を見上げて何度も「許して」と叫んだ。  「43歳って嘘なんじゃないの」  隣には裸のまま眠る槇浩平 43歳。  30を過ぎると体力が落ちるし連続してセックスなんてできない。  だが槇は違った。ほとんど休憩なしに千佳子を虐めて楽しんだ。  何度イカされたのかわからない。前から後ろからと揺さぶられて千佳子の身体が何度も歓喜に打ち震えた。「一度だけ主導権をやるよ」と偉そうに言われて、誘われるがまま仕掛けようとしたが、逆手を取られてジ・エンド。もうしばらくセックスはしたくないほど脚腰がガクガクだ。  「…この、ドS変態鬼畜野郎」  こぼれた声はかなり掠れていた。空気のような音にならない声に眉根がよる。しっかりと言ったつもりだったのに声が出ないなんて、なんて情けない。  千佳子は怠い身体に叱咤しながら起き上がると冷たくなったパンツを履き、ブラを着けた。慌てて服を着込みながらアプリでタクシーを呼ぶ。  もう今日は一歩も外に出たくなかった。    「またどこかで」  連絡先はきかなかった。槇からも聞かれなかった。  槇は非常に満足げにすやすや眠っている。千佳子は財布から一万円札を一枚出してサイドテーブルに置いた。ホテル代には少し足りないだろうが足しにはなるだろう。メモに何か書こうか迷ったがそうこうしているうちに槇が起きてきそうでやめた。起こさないように静かに部屋を後にしてその週末は自宅でずっと蓑虫状態だった。  
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