大人のレンアイってなんですか?

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 朝日が顔を覗かせた頃、ふたりはベッドの中からそれぞれ会社に連絡をしていた。千佳子の掠れた声と気だるげな喋り方は電話口の相手を十分騙せたようだ。  「明日も休めって言われたわ」  「たまにはいいんじゃねーの」  「そっちは?」  「俺も有給が有り余ってるからそれで処理しておくってよ」  ふぅと互いに小さくため息をつき、表情を緩ませる。  槇が「ん」と腕を伸ばし、千佳子はその腕に頭を乗せた。  まだ熱の引かない身体を寄せ合う。ついさっきまで繋がっていたそこに今はもう存在はない。だけど何度も執拗に刻まれた杭だ。まだ感覚はある。  「……なんだよ」  「よく保つわね」  「まぁ、2、3週間ほどヤッてなかったしな」  誰かさんと違って、と槇の声がまた不機嫌になる。これだけ気持ちを傾けていたのにどうして離れようと思ったのだろうか。千佳子はてんでわからない。  やっぱりだいぶ捻くれているのだろう。ここまできても槇の口からちゃんとした愛の言葉もなかったのだから。  「私が他の男に抱かれたの嫌だった?」  「…面白くはねえな」  「それ、ヤキモチっていうのよ」  「…そうかよ」  「嫉妬って知ってる?」  「うるせーな」  見上げた顔はひどく不貞腐れていた。こっち見んな、と目元を隠される。  でも千佳子はその手をそろっと退けて、その腕を自分の肩に回した。  「ねえ、ギュッとして」  「…ん」  槇は少し躊躇いながらも千佳子の肩を抱き寄せて抱え込んだ。千佳子は嬉しさを隠すように槇の顎の下に潜り込む。少し赤くなった耳を見た槇は目元を和らげると、くしゃくしゃになった髪に顔を埋めた。  素直になれないのはお互い様だった。ただ、千佳子は好きなら好きだとはっきり言うタイプだ。本当は槇の言葉でちゃんと気持ちを聞きたい。でもそんなことしなくても十分に好意は伝わってくる。その証拠に今も少し不器用ながら抱きしめてくれるし、こういう甘い雰囲気を嫌がりはしない。  もっと言えば昨夜は本当にひどかった。佐野と寝たことを知った槇の怒り方が、だ。「付き合ってなかったじゃない!」と千佳子が言っても「俺に告白しておいてよく他の男と寝れたな!!」ともうそれはそれはものすごい剣幕だった。顔は鬼のようだったし、槇の背中には氷山が見えた。 見た目だけは整っているので余計に迫力があった。  事実槇の言う通りなので、千佳子は反論はしなかった。その代わり「拒否らなかったらこんなことにはならなかったのよ!」と言ってやった。つまりまあ、槇のせいだ。  「あのさ」  千佳子は槇の声に小さな反応を返す。だが散々、日を跨ぎ空の色が変わるまで感情をぶつけあったのだ。それは言葉だけでなく身体で。時には千佳子が槇に刷り込むように何度も肌を重ねた。その証拠に千佳子の声は今ひどく掠れて聞き取りにくい。「ん?」と返した反応は思ったよりも声が出なかった。  「…毎日は無理だけど、その」  「ぅん」  「……来るなら来いよ。…その代わり、無理だと思ったら帰れって言うかもしれない…」  しゅんと尻すぼみになる言葉に千佳子はクスクスと笑う。40も過ぎたいい大人の男が、とても勇気を振り絞っている様子におかしくなったのだ。千佳子を傷つけないように、嫌な思いをさせないように。そして、千佳子を傷つけてしまったことで自分がガッカリしないように。精一杯伝えようとしてくれている。        
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