大人のレンアイってなんですか?

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 「何がおかしぃんだよ」  「だって」  人が真剣に、と槇は目を釣り上げる。千佳子は掠れた声が時おり聞こえないぐらい大笑いしながら目尻から溢れる涙を拭った。  「嬉しくて」  槇はまた千佳子に揶揄われると思った手前、素直な気持ちを聞き逆に言葉に詰まる。何を言ってくるのか、何を言われるのか構えていた分、千佳子の嘘偽りない柔らかい表情に何も言い返せなかった。  「大切にしようとしてくれてるって」  「…っ、お、おう」  「ふふふ」  千佳子は槇の背中に腕を回す。ぎゅうと抱き締めて「ありがとう」と呟いた。途端に槇の身体がピシリと固まる。千佳子が不思議そうに見上げれば、槇の視線が面白いほど彷徨っていた。今まで真剣に誰かと向き合い、誰かと付き合ってこなかったせいで、こんなふうに純粋な気持ちを向けられることに慣れていないらしい。  一体どれだけ打算と適当さで付き合ってきたのかと呆れたが、そのおかげで槇は今まで一人だったのだろう。勝手に「自分には無理だ」と思い込みその殻に閉じこもってしまった。その頑なな心がちょっと悪い男に見えて関心を寄せた女性は多数いたものの、結局彼女たちも槇が自分の思うように動いてくれないとわかれば離れていった。千佳子のように正面切ってぶつかってきた女性がいなかったのだ。  「じゃあ、明日からくるわ」  「(…今日じゃないのかよ)」  「え?なに?」  「なんでもねーよ」  「寂しいなら寂しいって言いなさいよ」  「寂しくなんかねえわ!ってか、いきなり大量に荷物持ってくんなよ。限度があるからな」  素直じゃないわね、と千佳子は肩を竦めるが、十分進歩はしている。  いきなりそれ以上を求めても仕方がない。なんたって人生の半分ほどそうやって生きてきたのだ。すぐに矯正できるはずがない。  千佳子は笑いながら「はいはい」と適当に返事をした。もちろんまだ槇に抱きついたままだ。    「本当にわかってんのかよ」  「わかってるわよ。意外とモノが多いのね」  「そうか?まあ好きなものを集める癖があるからか」  主に酒と酒瓶だ。昔は外国の珍しい煙草や葉巻きも集めていたという。  だがそれらは、仕事を通じて出会った人に売った。なんでも相当のコレクターで示された金額があまりにも大きかったせいでもある。  当時の、まだペーペーだった会社員の槇にしてみれば一攫千金もいいところだった。ということで、あっさりと手放した。元々スモーカーでもなかったのもこれ幸いということだろう。      
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