エピローグ

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 千佳子は自分の中から槇を引き抜いた。まだどこか期待を持っていたそれは萎えているものの勃ち上がったままだ。薄い化学性の膜を被っているが先端には吐精したものが溜まっている。  千佳子は自分の後処理も後回しにして、役割を終えたそれを剥ぎ取り槇の身体をゆっくりと押し倒した。  「本当の気持ち教えて?どんなことでも受け止めるし、否定なんてしないわ。その代わりムカついたら怒るわよ」  千佳子の言い分に槇はようやく笑みを見せた。そんなことぐらい知ってる。この1ヶ月一緒に住んでいる間に何度か小さな衝突があった。そのどれもがしょーもないことだが千佳子はそのしょーもないことにも付き合ってくれた。今だって「自分の気持ちを偽るな我慢するなちゃんと言え嘘をつくな」と言っているのだ。千佳子ははっきりものを言うし白黒つけたがるタイプだから隠すことを嫌う。  「わからねえんだ」  だから素直に白状した。この気持ちがなんなのかわからなかった。  気づいたら千佳子のことを考えているし、一緒にいると楽しい。  近づきたいしそばにいてほしい。でもいないといないでどこかホッとする時もある。それが申し訳なく思うのに、突き放されると怖い。この感情がなんなのかわからない。  40も過ぎたおっさんなのに、と自分を見下ろす千佳子の頬に手を伸ばした。  「それが恋なのよ」  「…恋」  「そうよ。本当の恋なの」  千佳子は伸ばされた手のひらに頬を擦り寄せると槇の隣に寝転がった。  本当は襲ってやろうかと思ったが、いつもより神妙なので茶化すのはやめた。  「…本当の恋?もう43歳だぜ?あ、もうすぐ4だわ」  「そうなの?いつ?」  お祝いしよう、と千佳子は笑う。昔なら「そんなのいらねー」と簡単に切って捨てた。そうやって自分を守ってきたのだ。それに気づいたのもつい最近、千佳子に指摘されたからだろう。  「…千佳は、こんな男で本当にいいのか?」    千佳子はきっといろんな男性と付き合ってきたがそのどの人に対しても本気で向き合ってきたのだろう。だからきっと槇の機敏にも聡くてこうやって許してくれる。感情的だし暴力的だし意地っ張りで素直になれないのは傷かもしれないが、何も言わずに腹の中に溜め込まれるよりはわかりやすくてよほどいい。だからこそ、自分なんかでいいのか、とも思う。  「あら、珍しい。弱気発言」  「俺は自分の弱さに打ちのめされっぱなしだ」  それは今まで向き合ってこなかったからだ、と千佳子に指摘され槇は反論できなかった。  確かにその通りでそのツケを払う気がなかったのも事実。そして予想外の現実にこうしてあたふたしている。  「40も過ぎたおっさんが本気の恋なんて誰得だよ。マジで」と言いたいぐらいには振り回されていた。    
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