エピローグ

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 「じゃあ何処だったらいいのよ」  店を出た帰り道手を繋ぎながら歩いた。最近は外で手を繋ごうとしても嫌がらなくなった。付き合った当初は嫌がられた。それで喧嘩もしたのだ。手を繋ぎたい千佳子と恥ずかしくて繋げない槇だ。  「袖を掴むのはいい」と言われた時はいつぞやの女を思い出して千佳子がキレた。まあ彼女とワンナイトの女を同列に扱うなということだ。  ただ槇にしてみれば恥ずかしいだけで同列に扱ったつもりはない。二人でよくよく話をして、結局「別に裸を見せるわけじゃないのに」と千佳子が拗ねて剥れたところで軍配が上がった。  槇はだんだん千佳子に甘くなってると思いつつも、昔のように突っぱねることができない。それに「わかったよ」と言うだけで千佳子が嬉しそうにするのだ。  同じ40を過ぎた女なのにこんな顔を見るとつい可愛いな、と思ってしまう。そう思ってしまうあたりだいぶ自分は毒されているし、この関係に馴染んできたんだろう。  「んー、千佳ん家は?」  恋なんて知らなかった。本当の意味で、恋など愛など知らなかった。  いや、知ろうとも知らなかったし知りたくなかった。    「私の家?」  「あー、そっちじゃなくて実家」  実家?と千佳子が首を傾げる。だけど直ぐに理解したのだろう。  「ええ?!」と声を上げた。  「いや、期待させて悪いけど今はまだそういうんじゃない」  「…だったらなんなのよ」  一気に舞い上がった気持ちが萎む。若干泣きそうになりながら槇を見上げた。  「ただ、ちゃんと付き合ってます、って言った方がいいんじゃねえかって。この年齢だし好きにしろって言うかも知らねえけど、相手いるって知ってるのと知らないのとでは違うだろうし」  槇は苦笑しながら解かれた手に自分の手を差し出した。  「ほら」と言いたげな手に千佳子が自分の手を伸ばす。  「……どうしたの?頭でもぶつけた?」  「うるせー」  「いや、嬉しいんだけど、その、そんなこと、考えてなかったから」  千佳子の目にぶぁあと涙が浮かぶ。泣かせるつもりはなかったのにまさかこんなところで泣くなんて、と槇が困った。周囲は「喧嘩?」とすれ違いざまにじろじろと見ていく。槇は仕方なく、千佳子の手を引きながら歩き出した。  「…泣くほどのことかよ」  「あったり前でしょ!!!」  千佳子は泣きながら怒った。槇と一緒にいたくて結婚なんか諦めていた。第一親に会わせるなんて考えたことがなかった。そんなの期待させるに決まっている。でも槇は確かに「今はまだ」と言った。それは「未来はわからない」と言うことだ。そしてそれはつまり将来を共に歩む可能性もあるということでもある。  
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