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___これからもそばにいてほしい。
そんな懇願が千佳子の耳に落ちてきた。
さっきまで馬を応援していたせいで声がひどく掠れていて声が聞き取りづらい。それでも千佳子の耳にはちゃんと聞こえた。
「…うん、うん。いるわよ。ようやくわかったのね、私の気持ち」
千佳子があの居酒屋の座敷で告白した時に言ったことを槇は思い出していた。あの時しらばっくれたし、まったく気づいてなかったけど、きっとあの時からもう楽しかったのだろう。
「うん、わかるわ。見てて危なっかしいし、こえーもん」
「はぁあ?!」
「だってお前、告白してきたくせに他の男に抱かれるほど節操なしだし。自分で巻いたタネだけど俺はそこまでじゃねえよ」
でもそれは槇が悪いのだ。自分でわかっているから千佳子も追及しない。
ここは大人しく飲み込んだ。
「すげー怒るし、笑うし、泣くし。40過ぎてこんなに感情の起伏が激しい女逆にやべーだろ」
「うるさいわね。好きになったら仕方ないじゃない」
「…好きになったら、か。それも今ならわかるわ」
槇はフと笑うと抱きしめた腕を解いて歩き出した。目を真っ赤にした千佳子がその後ろ姿に訊ねる。
「ねえ、知ってる?それ嫉妬っていうのよ」
「あぁ。知ってるよ。すげーイラつくやつだろ」
「そうよ。他の男に会ってると気になって仕方ないのよ。あとね、自分だけのものにしたくて仕方ないの。独占欲っていうのよ」
槇はハッとして立ち止まる。ワクワク顔した千佳子と目が合った。そろりと目を逸らす槇に千佳子は口元を緩めてニマニマしながらかけよる。
「結構初めから独占欲全開だったでしょ?」
「うるせーな」
「もうあの時から好きだったでしょ?」
「っ、好きだったよ!」
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