白よりのグレー

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 声は大事よね。声は。うん。  お互いなんとなく会釈して千佳子はまた綾乃との会話に戻る。  この間電話で話した時は「全然寝てないの」と嘆きながらも親バカを発揮して娘の写真をたくさん送ってくれた。顔立ちは旦那に似ているが旦那は早くも綾乃の片鱗が現れていると言う。生まれて一年と少しだが言葉を覚え始め毎日が楽しいようだ。まだ文章にはならないけれど知ってる単語が日に日に増えていきおしゃまな娘を既に旦那は外に出したくないと渋っているらしい。  それに反して娘はお出かけが好き。危なっかしく歩き回る娘に綾乃と旦那は振り回されているようだ。    「ほい、これあちらさんからサービスだって」  そんな綾乃の近況を読んでいると目の前にひとつの皿が出された。  先ほどの男性から一品いただくことになった。千佳子の好きなつまみのタコワサだった。  ちなみに既に一皿食べている。が、こういうのはどれだけでも入るものだ。  千佳子は男性の方に「ありがとうございます」と意味を込めてお茶割りのグラスを持ち上げた。  彼も意味を察したらしく、同じようにグラスを持ち上げる。  エアー乾杯と称して、グラスをぶつけたふりをする。  すると隣に座っていたサラリーマンがよいしょと席をたった。    これもひとつの出会いだろうか。  千佳子はなんとなく誰かと話をしたい気分だった。    「すみません」  カウンター内の店員を通じてその男性に訊ねてもらった。  「もつ鍋を食べたいのですがよかったらお付き合いいただけませんか」と。
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