大人のレンアイってなんですか?

14/36
前へ
/119ページ
次へ
 その日から佐野とは定期的に会うようになった。  会えばセックスもする。佐野は千佳子にいつも骨抜きにされて「情けない」と言いながらも喜んでいた。  「千佳子さん」    それはあれから何度目かのこと。もう慣れたように事後は一緒にお風呂に入る。その時決まって佐野は千佳子を後ろから抱きしめて甘えてくる。  こう言うところは可愛い、と思う。誰かさんと大違いだ。  「そろそろ俺とのこと真剣に考えてくれません?」  「…え?」  「恋人だと自信持って言いたいんですけどいいですか?」  佐野は千佳子の耳にキスをしながら許しを乞う。  今の二人の関係は曖昧だった。でも千佳子はちゃんと気づいていた。  佐野の確かな好意を。勢いで身体を重ねたけど、きっとそれが分岐点だったんだろうけど、佐野は日に日に千佳子に対する表情を変えていった。  「……それは」  「わかってますよ。千佳子さんがどこか寂しそうにしているのも、きっと以前に言ってた彼が関係しているんですよね?」  千佳子は曖昧にうなづいた。  あれから一度も槇に会っていない。一度だけメッセージをしたけど無視された。  「…そうね。でも彼は」  「利用していいから。俺をみてほしい」  顎を掬われて佐野の顔が千佳子の肩越しで傾いた。  もうこの感触にも慣れてしまった。千佳子は味わうように丁寧なキスに身を委ねながら佐野と視線を合わせる。  「千佳子さんを、そんな風に乱す彼が羨ましいですよ。でも、手を離したのなら遠慮しない。ただあなたが頑な状態では俺だってどうすればいいかわからない」  頬が両手で挟まれる。佐野の腕からぴちゃぴちゃとお湯が伝って波紋が広がった。千佳子はただ否定することもなくされるがままに受け入れる。ぶっちゃけ自分だってどうしたいのかわからないのが本音だ。  「俺だけを見てください。彼と同じことはできないけど、彼よりは誠実だと思います」  「…ふふ。それはそうかもしれない」  力なく笑うと佐野はどこかホッとしたように眉を下げた。  それでもそれ以上千佳子は佐野の言葉に対して答えは出さなかった。  肯定とも否定とも取れるまま、その夜は過ぎていった。  
/119ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5534人が本棚に入れています
本棚に追加