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「振られた?」
その数日後、千佳子は綾乃を呼び出していた。
「話ながら整理したいことがあるから付き合って」と言えば、何かを察したらしい綾乃が旦那から時間をもぎ取ってきたらしい。こういうフットワークの軽さは今も昔も綾乃は変わらない。それは理解のある旦那がいるからだとわかっている。羨まし反面、今はとても感謝していた。たとえ理解できていなくとも子どもに聞かせていい話ではない。
「…違うわよ。断られただけよ」
「それって振られたってことよね?」
綾乃はキョトンとしながら首を傾げた。
今ちょうど時系列で現状を話していたところだった。
槇に「一緒に住みたい」と言えば「無理」と言われたところで綾乃が「フラれた」と言った。認めたくなくて「フラれていない」と言ったが綾乃が「それはフラれたというのでは?」と不思議そうにしている。
「…そうよ。それで悔しくて」
「佐野さんを食ったのね」
「…最初向こうから誘ってきたのよ。その後はまあ、ずるずると」
「でた!曖昧な関係」
「何よ、それ。でたって」
「今流行ってるのよ!知らないの?『嘘つきは恋人のはじまり』ってドラマ!その主役のふたりがね、曖昧な関係なのよ。うふふふふ♡」
聞けば遠恋中の彼氏がいるヒロインは自分に好意を持って近づくヒーローと曖昧な関係になっているらしい。そのヒロインの心情が「彼氏がいても好きな人ができてしまったことのある女性」たちの心をくすぐり共感の嵐を呼んでいるらしい。ひとつ間違えれば炎上しそうな話なのに「綺麗な恋なんてない!」「人間だから欲深くていい!」「寂しい気持ちわかるし、彼と好きな人比べることもわかる!」とSNSが違う意味で萌えているんだそう。
「しかもベッドシーンが結構濃厚なのよ。地上波じゃできないわよ、あんなの。さすがネットTVね」
綾乃がうんうんと頷いている様子を眺めながら「そんなに面白いのか」と携帯に視線を落とす。
「で?千佳子は一回フラれたぐらいで諦めるの?そもそもまだ好きって言ってないでしょ?」
綾乃の言葉に弾けたように頭を上げた。
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