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「昔言ってたじゃない。落としたい男には何度も告白するって。3回ぐらい真剣に言えば大体の男が『そんなに俺のこと好きならまあ付き合うか』って付き合ってくれるって自信満々に言ってたでしょ?」
千佳子は綾乃の言葉に過去の出来事を振り返った。
確かにあの当時、千佳子には怖いものはなかった。女としてもある程度外見は良かったし、崩れないようにキープする努力もした。仕事も楽しくて人脈を築くことに精を出した。おかげでそれなりの男と付き合ってきたし、いい男もクソ男も知っている。
「ほら、25歳ぐらいの時に付き合ってた人。15歳ぐらい年上で千佳子がもうプッシュしまくって付き合ったイケオジいたでしょ?年齢がうんたらって断られたって言ってたのに何度も果敢に挑んで落としてたじゃない」
つい今の今まで忘れていたが、そんな人と付き合った記憶はある。
確か、いくつか会社を経営していて、早くに結婚したがワーカーホリックすぎて奥さんと別れた男性だった。
「あの時ほら。同期で集まった時に言ってたでしょ。皆『千佳子の外見があればね〜』って苦笑してたけど千佳子は『契約取るのも同じでしょ?一回断られたからって諦めるの?だから数字取れないのよ』って呆れてたけど、その後その場を慰めるの大変だったのよ?」
その後のことはチラッと千佳子も他の同期から聞いた。千佳子の言葉を聞いた主に男性陣がすごい千佳子に嫉妬していたという。
「そういえば『女はいいよなー?ちょっと微笑んだだけで契約取れるんだろ?』って僻んでた奴いたわね」
「そうそう!その後千佳子が『だからモテないのよ。男だからとか女だからとか言ってる奴は一生数字からも女からもモテないわ』ってビール飲みながら言ってたの、すごく記憶に残ってる」
綾乃がうんうんと言いながら焼き鳥を頬張る。
「あの時の千佳子、イケイケだったじゃない。『断られたからってそこで終わる関係ならそれまでだけど、欲しいなら何度も挑戦しないと』って言ってたでしょ?『言わなきゃ意識しない男もいるし、言ってみないとわからないって。言ったら終わり、じゃなくて言わないとスタートラインに立てないのよ』って」
「…よく覚えてるわね」
千佳子はまさか綾乃がここまで自分の言葉を覚えていると思っていなかった。だから素直に驚いた。
「…覚えてるわよ。だって、雅…旦那のこと言われてるようでグサグサ刺さったもの」
綾乃は苦笑した。
綾乃と綾乃の旦那、雅は同じ中学校の同級生だった。当時ふたりはお互いに好意を持ちながらもそのことを伝えられずに卒業してしまった。
高校も同じだったが、同じクラスになることもなく、大学は別々の大学に進学した。お互いどこか気にしながらもその気持ちをずっと閉じ込めていたのだ。
「もし何か言ってたら何か変わったのかなってずっと考えてたし、そんな無駄なことって考えないようにして、時々思い出して否定してって繰り返してた時期だったし」
連絡先は知っていた。でも会う理由がなかった。
「ご飯行こうよ」と綾乃から気楽に誘えなかった。
まさか雅から「久しぶり」って連絡がきて「一緒に仕事しない?」って言われた時はとてつもなく驚いたけど、それを了承することが綾乃なりに雅との距離を縮める第一歩だった。
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