大人のレンアイってなんですか?

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 小さく深呼吸して涙を拭った。燃え上がる気持ちを必死に抑えながら千佳子は「私は大人」だと自分に言い聞かせる。感情に任せてこんなところで迷惑をかけるわけにはいかない。それでも槇は千佳子と目が合ったにも関わらずフイッとすぐに視線を逸らした。  「ちょっと、今目が合ったじゃない!」  だがそんな言い聞かせた言葉は数秒後無駄に終わる。槇が目を逸らしたことに一瞬でカッとなってしまった。勢いで出た言葉はまるで高校生のようなセリフ。おまけに声の掛け方からして最低だ。だがそんなこと気にしていられるほど余裕なんてなかった。  「見りゃわかんだろ。連れがいるんだよ」  槇はうんざりした顔で千佳子に視線を向ける。  そんな視線を向けられたことに千佳子は悲しくて悔しくて仕方なかった。  「だから私の電話も無視したの?」  「電話?しらん」  あからさまな態度にとうとう脳の血管が切れそうになった。いや、プツンと音がしたかもしれない。  槇は「後で折り返すから」と千佳子に背中を向けた。これ以上話しかけるなという無言のオーラだ。彼の背中からヒシヒシと拒絶を感じた。  連れの女性は居心地悪そうに千佳子を見て槇が歩き始めたのでちょこちょことついていった。  そのひとつひとつの動作が千佳子とすべてが対照的でついには抑え込んでいたものが爆発した。  ______バシッ!!  昔から切れたら手が出た。「そういうところ駄目だぞ」と兄に注意されたが、兄の背中を追いかけて育ったのだ。男だから女だからとか知るか。クソ喰らえだ。  「っ、てぇ!」  だって仕方ない。超ムカつくわ。めちゃくちゃムカつくし非常に腹立たしいしとても憎たらしかった。だから背中をむけた槇を追いかけると思い切り槇の背中を鞄で殴った。槇は前のめりでこけそうになったところを踏ん張った。そのまま振り返ったところで今度は頬にクリーンヒットする。鞄の柔らかい部分ではあったが、色々荷物が入っている。その鞄が遠心力を利用して槇の顔にジャストミートしたのだ。 _____バコン!! とてもいい音がした。大の大人でもそれなりの体格の槇でもその衝撃にはよろめいてドテッと尻餅をつくほどに勢いを乗せて殴った。                
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