大人のレンアイってなんですか?

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 槇は何かを諦めたように言い放った。どこか投げやりで言葉の端端から拒絶も感じた。「それでいーよ。どうでも」と内側から外へ押し出した。千佳子はそれを敏感に感じて腹立たしくて、厚意で出してもらったお茶をそのまま槇にぶっかけた。  「…ムカつくのよ。人をこんだけ振り回しておいて、向き合おうとした途端ポイってなんなの。私のこと舐めてるでしょ?」  「…舐めてねえよ」  「じゃあちゃんと向き合いなさいよ!」  「飛躍しすぎるんだよ!突然一緒に住もうってアホかってなるだろうが。一緒に住むことがお前の言う向き合うってことなのかよ、違うだろ!!」    槇の言うことは最もだった。飛躍しすぎだと言われるとそうかもしれない。  大将だけがおろおろとしている。どちらの言い分にも穴が合った。  「……知りたいって思って何が悪いのよ。もっと一緒にいたいって。……一緒にいると楽しかったから、もっと近づきたいと思ったのよ」  楽しかった。槇は無茶苦茶な奴だけど、居心地が良かった。  取り繕わなくてよかった。何より千佳子を女として求めてくれた。  たとえそれが勢いで始まった関係でも。遊び感覚だっても。  「……嫌なのよ。だって絶対他の女抱くでしょ!!すごく腹たつの!!」    千佳子の目からとうとう涙がこぼれ落ちた。この男の前で泣きたくなかった。それでも、他の女を抱く槇を想像するだけで怒りで身体が震える。自分のことを棚に上げてなんて言い草だと思うけど、そもそもこの男は嫉妬などしなさそうだ。    「……そんなこと言われてもだな、」  槇は眉を下げて苦笑する。女に泣かれるのが一番困る。  いつもならここで冷たく突き放すが、千佳子の場合それをすると余計に逆上してきそうだ。  「…仕方ないじゃない。…好きなのよ、気付きなさいよ!分かってて見てみぬ振りするな!好かれる覚悟ぐらいもっときなさいよ!」  好きだから近づきたい。知りたい。もっとそばにいたい。  そんな感情が湧くのは必然だった。だから千佳子は槇に「住みたい」と言った。自分の感情を先に伝えると逃げられると思って“貸しいち”を利用しようとした。でもきちんと理由を言わなかったせいで槇が逃げ回った。自業自得だ。それをこんなふうに感情に任せてぶちまけることしか出来ない自分にも腹が立つ。      
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