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「建設的に話をしましょう」
佐野は暗に「いい大人だろ?」とお互いにそっぽを向いている二人に言い聞かせた。大将は「おぉ!」と驚きながら開けっぱなしにしていた扉を閉める。
「あれ、お仕事はいいのですか?」
「うん。大丈夫」
「「……」」
千佳子と槇が二人して大将に呆れた視線を向ける。大将はそんな二人の視線をスルーして佐野に笑いかけた。
「さ、やろう」
「…そうですね。えーっと。ではどうしてこうなったか、ということなんですけど、これは大将に聞いた方がいいかもしれません。客観的に話が聞けるので」
佐野は二人に視線をやり特に口を開く様子もなかったので大将に視線をやった。そして、大将は自分の知る、ざっくりとした話を伝える。もちろん、先ほどの千佳子がブチ切れて店を飛びだした話ではあるが。
「…なるほど。千佳子さんは告白したのに、彼は気を持たせただけで答える気がなかったと」
「そうだな」
「まあ、その話を切り取ると彼が非常に悪者に聞こえますが…」
千佳子が黙ったまま俯く。槇は弁明もしなかった。
「…あなたはなぜ、千佳子さんを追いかけたのですか?そしてどうして僕に苛立ちましたか?」
槇グッと奥歯を噛み締めた。その顔は不本意極まりないと表情が物語っている。
「大将、ちなみに彼には追いかけるように葉っぱはかけましたか?」
「…あ、ああ。まあ、そうだな」
「で、あなたは大将に言われたから追いかけたのですか?」
「…そうだよ」
「でも、僕達を見つけた時、別に見て見ぬふりしようと思えればできましたよね?」
槇は無言を貫いた。そんな様子を見て千佳子はもうどうでもよくなってきた。
「…もういい。もういいわ。もう」
千佳子はまた溢れそうになる涙を雑に拭うと立ち上がった。
「ハッキリしない男は嫌いなの。そこまでして認めたくないんでしょ?」
「…認めたくないって」
「どう考えてもヤキモチじゃない!“お前だって人のこと言えねー”って、そういうことでしょ?!自分のことを棚に上げて人を責める権利はないわ!」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ」
「だったらもうとっととくっつけばいいだろうが。何をそんなに揉めてるんだよ」
大将が呆れるように本音をこぼした。その瞬間ピキリと三人が固まる。
「大将、それはダメです!僕は千佳子さんとお付き合いしたいんですから」
「え?やっぱり?だったら掻っ攫っちまうか?」
「それができればいいんですけど、彼女がこの状況で無理やり連れ込めるほどクズではないです」
「それはクズとは言わねえけど・・・」
大将がチラッと槇を見る。槇はハッとして目を逸らした。
「好きだけど一緒に住みたくないんですか?」
「……」
「結局はヤリたい時だけそばにいれればいいという思考ですか?」
「……っ」
「だったら千佳子さん、僕と一緒に住みません?そしたら彼のこと忘れられるでしょう?」
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