大人のレンアイってなんですか?

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 千佳子は隠していた気持ちを素直に吐きだした。誕生日にプレゼントを贈りあったり、時々は良いものを食べに高級レストランに行ったり、そういう特別なことも欲を言えばしたい。    でも、槇とは何気ない毎日の方がきっと楽しいだろう。お互い大雑把だし感情的になりやすいし全然大人になれない。好奇心に導かれるまま、欲望のままに突っ走るタイプだ。  「…究極を言うとね。別に一生結婚できなくても良いの。でも、他の女を抱かないで。私、すごくやきもち焼くし、多分めちゃくちゃキレるから」  「……それは今回のことでスッゲーわかった。俺のことめちゃくちゃ好きだろって」  「そうよ」  「でも同時に、だからこそこれ以上深みにハマらない方がいいと思った。自分で近寄っといてサイテーだけど、本能的に潮時だと思ったんだよ。今までもそうやってこっちに踏み込んできた女たちを遇らっていたし、泣かれても怒られてもそれを貫き通せたんだ。でも、なぜか今回はそれができなかった」  なんでかな、と槇が自重気味に笑う。  千佳子は恐る恐る振り返りながら泣き腫らした目で槇を見上げた。  「私のこと好きでしょ」  「……うん」  「やっと認めたわね」  槇は逃げ場を失った犯人のように両手をあげた。降参だ、とどこか苦虫を噛み潰したように笑っている。  「何その、不本意って顔」  「不本意だよ。こんなにも本気になるつもりはなかった」  「……大事にできないから?」  「…あぁ。大事にできなくてまた自分に落胆することが怖いんだ」  お前の言う通り、ただのヘタレで根性なしだよ。弱虫で意気地なしだ。    槇はどこか諦めが滲んだ声でそのまま続けた。千佳子は起き上がると槇に手を伸ばす。小さな子どもが縋るように千佳子の腕をすり抜けて腰を抱いた。  「俺の両親がそうだった。喧嘩ばかりでいつも傷つけあってた。姉も結婚はしたが離婚した。父も再婚したらしいが、結局最後は一人で死んだ。離婚するとかしないとかで揉めていたらしい。その女は父の葬儀にも出ずに、姉が喪主を務めたんだ」  そんな家族を見たせいか槇もどこか「あぁやっぱり」と腑におちた。  恋人ができても続かないし、彼女が泣いていてもどこか嘘くさく見えたりする。好意をむき出しにされると遠ざけたくなって、かと言って顔色を伺われると鬱陶しい。  それを当時の彼女に言えば「人としてオカシイんじゃないの?」詰られた。槇なりに大事にしていた人だった。だけど彼女は最後に罵って去っていった。それ以降、同じことが何度か繰り返された。その度に落ち込んで納得して諦めた。  「傷つけ合うなら初めからそのつもりならいいって、色んなことを諦めた。それが楽だったし期待なんかしたところでいつも落とされるだけだ」  「……そういう人こそ、本当の愛を知った方がいいのよ」  「ふっ、“そんなのあるもんか”って今までの俺なら言った。でも今、千佳の前でそれを言うのは失礼だと言うことぐらいは理解してる」    
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