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綾乃に向けた感情とよく似たものだった。
ぶっちゃけると自分の方がモテたとも思っている。
だから、綾乃が結婚できるなら自分もできるはずだと思っていたし、彼女が魅力的なのはわかるが自分も悪くはないと思っていた。
だけどこのざまだ。槇はまだいい。
置いてかれた、と。捨てられた、と。そんな感情が強いのだろう。
おまけに可愛がっていた後輩だ。この男はその後輩と天秤にかけて自分の方がいい男なのに、なんて考えなさそうだ。
その点、千佳子のそれとは違うものだった。千佳子の考えは他人に話せないほど醜い。間違っても本人を前に言えないものだった。
「私たち、同志ね」
正確には違うが、この男がそんなこと気づくはずない。
千佳子は結婚までの退屈凌ぎであり、ストレスの吐口を見つけた。
「…確かにな」
「仕方がないからしばらく付き合ってあげるわ。あ、彼女とかじゃないわよ?食事とか、ひとりでいたくない夜とか」
女だって性欲はある。40になると減ると言うが千佳子の場合まだ未婚だからかしっかりとしたメスの欲求が強かった。そういう夜は誰か傍に居て温もりを分かち合いたい。褒められた関係ではなくてもそういう相手がいるのと居ないのとでは心の余裕が違う。
「それは…噛むぞ?いいのか?」
「そこは善処して。でも私は婚活するわよ?優しくて『おかえり』って言ってくれる旦那さん見つけるんだから」
千佳子は宣誓した。つまりふたりは恋人ではないが、ソーユーコトを含めた相手になる。セフレよりは恋人に近いが「結婚」はできない。
それは互いに求めるものが似ており、お互いにそれを持っていないからだ。
だからこそ千佳子も槇も恋人として認識しなかった。
自分達はきっとこれぐらい気軽な関係でいい。言うなれば部活仲間のような。いやそれは綺麗すぎか。
「まずはそうね。近々あの居酒屋に行きましょう」
ただ年齢のことを考えると長くは続けられない関係だ。
それならこの期間を楽しむべきだろう。人生は短い。どんなことも楽しまないと損だ。
「それは頼んだ。まじで。俺も行き辛いからさ」
「もつ鍋美味しかったのよ。その代わり今度は奢りよ?」
「わかったよ。女王様」
へいへい、と呆れたように槇は肩をすくめる。
千佳子はこんな関係も悪くないと思った。
束の間の本命を見つけるまでのグレーゾーン。
人生最後の遊びだと心に刻んだ。
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