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僕には好きな女子がいる。名前は渡辺美恵、十六歳。高校一年生。僕の名前は鈴石光太郎、十七歳。高校二年生。
彼女と出逢ったのは僕が中学二年生のころ。卓球部だった僕は大会には補欠で参加していた。一年生だった美恵ちゃんは卓球部に入ってきた。僕は、彼女を見た瞬間、からだに電流が流れた。
それからというものの、僕は彼女に釘付けになってしまった。
美恵ちゃんの当時の身長は百四十センチくらいかな。細身で、背中の方まで髪の毛が伸びていて、たまにポニーテールやツインテ―ルにしているのが堪らなくかわいい。
美恵ちゃんは僕の思いが強いからか、夢にも出てきた。
部活では僕が先輩なので、アドバイスができるところがあればしている。その度に、
「鈴石先輩ありがとうございます!」
と元気にお礼を言ってくれるのもかわいいし、明るくて好印象。
僕は彼女に恋愛感情を抱いた。
あれから三年が経過した。未だに僕の気持ちは伝えていない。フラれるのが怖くて。それに美恵ちゃんの気持ちもわからないし。
もしかしたら彼女にはもう好きな男子がいるかもしれない。わからないけれど。
言えないならラブレター書こうかな。でも、なんて書こう。ためしに書いてみた。
「こんにちは。僕は三年前から美恵ちゃんのことが好きでした。付き合って下さい」
初めて書いた割には悪くない出来だ。それとももっと短い方がいいかな?
「君のことが好きです。付き合って下さい」
短すぎかな?
恥ずかしいから誰にも相談できない。
ちなみに僕の周りには交際している生徒はいないと思う。
交際したら先生に何か言われるかな。注意されるとか。
そもそも、交際したらだめなのかな? 聞いたことがないけれど。
ラブレターは最初に書いたものにしよう。
果たしてどうなるかな?
とりあえず部活を終わらせてから、この手紙を渡そう。
十八時ころ部活は終わった。僕は外に出て美恵ちゃんが校内から出て来るのを待った。しばらく待ったら紺色のジャージを履いて、白いTシャツを着ている彼女を見付けた。そして声をかけた。
「美恵ちゃん!」
彼女は笑顔を見せてこちらに近づいてきた。
「鈴石先輩、おつかれさまです」
周りにはまだ生徒がいた。気にはなったけれど、ちょうどいい機会だから勇気をだして、
「これ、読んでみて」
白い無地の封筒に美恵ちゃんへ、と書いたラブレターをわたした。
「三年も前からわたしのことを……。でも、わたしは鈴石先輩をそういう目で見たことがなくて……。ごめんなさい」
やっぱりかぁ……と思った。
「……だよね。今日のことはなかったことにしてもらえる? 切り替えて」
「……わかりました。でも、そんな簡単に切り替えられますか? わたしは大丈夫ですけど」
「まあ、すぐには完全に切り替えられないけどね」
僕は自嘲した。そして、
「僕、帰るよ。また部活の時会おう。じゃあね」
かなり無理をしていた僕。でも、先輩として弱音を吐くわけにはいかない。一緒に散歩したかった。一緒にカラオケに行きたかった。それらは全て無になった。はあ……僕の三年間って一体……。ショック。三年間も思いを馳せていたから、そんな簡単に諦められない。僕のなにがいけないのだろう?
努力したら好きになってくれるかな? 見た目が悪いのか、それとも性格が悪いのか。それは訊いてみないとわからない。でも、訊く勇気が……。意気地なしの僕。
翌日の部活の時間。十六時ころ。僕は後輩の美恵ちゃんにフラれたから気まずい思いをしていた。一緒に部活……。休もうかな、仮病っを遣って。それとも卓球部の顧問の先生に相談するかな。どちらにしても、このままではいけない。部活がしづらくなる。
結局、相談することにした。
僕は職員室に行き、卓球部の顧問の先生に昨日あったことと、今の気持ちを打ち明けた。そうしたら、
「女にフラれたくらい何だっていうんだ。もっと強くなれ! ここで逃げることはできないぞ!」
僕は図星だったので、言い返すことができなかった。
「わかりました。部活、行きます」
僕は渋々体育館にむかった。
体育館に行ってみるとすでに後輩たちは来ていて、部活動の準備をしていた。その中には美恵ちゃんがいた。うわー、気まずい。でも、先生の言うように逃げることはできない。仕方がないのでみんなのところに、
「おつかれー」
と言いながら入っていった。うわあ、美恵ちゃんがいる、と思いながら。
「おつかれさまでーす」
返事がきた。僕をフッたことは気にもとめてない様子。本人の言った通りだ。有言実行なところは凄いと思う。
もう付き合えるチャンスはないのかな。可能性があるなら、再度カミングアウトしたい。だって、まだ好きだから。
でも、あまり何度も言うとしつこいと思われるからしばらく黙っていることにする。
しつこい男は嫌われる、と聞いたことがある。誰に聞いた話だったかな。友達から? それとも親から? 記憶が曖昧。美恵ちゃんに嫌われたら僕の気持ちは真っ暗になると思う。やりきれない。
僕の三年に及ぶ片思いは終わりを告げるのか? いや、もう一度、もう一度だけチャンスが欲しい。
とは言っても、僕に何ができるというのか。
そう考えていくと潔く身を引くべきか。どうしよう。
僕の目には涙が浮かんできた。諦めたつもりはないのに、悲しくなってきた。僕の純粋な心は壊れようとしている。いくら考えても美恵ちゃんが、僕の方に振り向くとは思えない。だからこればかりはどうしようもない。そういうことだろう。
(終)
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