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例えば魔王
「……ラミア様。会議中ですよ、ラミア様……」
耳元でそっと囁かれる声に、私の意識が少しだけ引き戻された。
一人暮らしで倒れたらどうなるんだろうって、普段から心配してたけど。なんやかんやで病院に運ばれたのかな。私、助かった?
「あの、ラミア様」
う〜ん。だけどなんか頭が痛いし、目が開かない。というかラミア様って、職員さん。
「ちょっと、恥ずかしいのでやめてくもらえませんか? ……お酒の飲み過ぎで倒れたとか、本当に申し訳なく思っています。多分体調不良と重なったんです」
「え……ラミア様、もしかして会議前から飲まれてたんですか?」
「会議? まさか。仕事中はさすがに……じゃなくてですね!」
助けてもらったんだし、開きっぱなしのPC画面を見られたのはいい。それが(コンプラ的にはあり得ないけど)病院職員にまで伝わって、「この人Web小説『白夜妖戦記』を読みながらぶっ倒れたのか〜」とか何とか思われててもいい。けれど、
「いくら何でも小説のキャラ名で呼ぶのはひどくないですか? からかわないでくださいっ!」
好きなことは恥ずかしくないけど、自分がその中の名前で呼ばれるのは殊の外恥ずかしい。私は訴えるように叫んで、重たい両目を頑張ってこじ開けた。……ここ、病院じゃなかった。
「しっかりしてくださいませ。ほら、魔王様も睨んでらっしゃるじゃないですか」
薄暗い部屋に、緑色の炎が煌々と。円卓に置かれた燭台の上で無数に輝いて、部屋の壁には紅色のカーテンとか、変な生き物の剥製とか、いかめしい大剣とか。
びっくりして首を回すと、私の背後には超絶美形の銀髪の青年がぴたりと添うように控えていた。こんな心臓に悪い人、病院職員なわけがない。
「会議中でございます、ラミア様」
長い銀髪を妖しく光らせ、青年は敬虔な調子で繰り返す。真面目そうで、だけど穏やかな声音。会うのは初めてなのに、特徴を並べてみるとすごく既視感というか、既読感がある。
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