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仲間には思慮深い魔王は、ぽやぽや考えている私がまだ寝惚けていると思ったようだった。
「報告も済んだゆえ、今日の会議は解散する。……シャウラ。ラミアは私が送る」
「かしこまりました」
魔王は敵役会議の終わりを告げると、従者のシャウラに下がるよう命じた。冴えた銀髪の輝きが遠のいて、代わりに漆黒の大きな躯体が近付いてくる。小説内でも魔王の図体は大きいように書かれていたけど、実際に見ると本当にデカイな。
「行くぞラミア」
間近で見上げるご尊顔は、さすが魔族を束ねる存在、無二の威厳に満ちていた。まっすぐ落ちる緋色の長髪に、耳上から生えた二本の黒い角。すきっと通った眉や、厳しい双眸、整った鼻や唇も。欠点が何一つ見つからなくて、その顔貌だけでこちらが恐縮してしまう。
魔王、というか魔王属性って、主人公とはまた違う王道を行くから格好いい。善でも悪でも、『王』が行く道だから、王道なのだ。
魔王城だと思われる建物はだだっ広く、通る道にはどこも妙な薄暗さと肌寒さがあった。黒い大理石が続く廊下は綺麗なんだけど、床からの冷気がすさまじい。赤絨毯と黒革のブーツを透して、足の裏がじんとする。こういうの、住んでいると慣れるものなのかなぁ。
「……会議の内容なのですが。あやつの失敗を流してしまってよかったのですか?」
沈黙も勿体なくて、目の前を歩く魔王の背中に話しかけてみる。魔王は床に付くほどのマントを羽織って、その上にふわふわした毛織物を無造作に垂らしていた。黒い毛織物には七色の宝石がちりばめられていて、すごく綺麗だし似合ってる。
「私も、同じ六天が失敗するのは恥ずかしいのですわ」
言いながら、小説内のラミアってこんな感じだったよなぁと思った。高飛車で味方にも厳しくて、自分が魔王の娘であることを鼻にかけている。
そのプライドの高さが悪役っぽくてよかったし、主人公たちにやられた時の悔しげな様子も、正直性癖にくる人は多いんじゃなかろうか。
ともあれラミアは魔王の娘ながら、魔王軍が誇る敵幹部の集まり『六天』の紅一点なのだ。さっき人間にやられたとか言ってたチャラ男も六天の一員で、シャウラは例によって入りません。
「一度や二度の失敗など別によい。それに人間どもに取られた鉱山はまた取り返す予定だ」
「それはどなたが?」
「私が直々に。遊びがてら一人で行く」
背越しで魔王が話す内容に、うわっとテンションがぶち上がった。これは序盤にくる、主人公たちの負けイベントだ! 主人公と魔王の初邂逅!
「お気を付けて行ってらっしゃいませ。……など、魔王様には不要なお言葉でしょうか」
なんてすまして返しているけど、私の脳内はお祭り状態だった。さすが悪のカリスマ! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!
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